ドラッカーは言います。

「成果をあげるために最重要なものは集中である。」

「やるべきでないことを効率的に行うほど無駄なことは無い。」

戦略はきちんと立てているのに、なぜか成果が上がらない。多くの経営者から、そんな相談を受けます。計画書は分厚く、やることリストも整っている。それでも数字が動かない。原因はどこにあるのでしょうか。

最大の原因は、やるべきことが多すぎることにあります。あれもこれもと手を広げた結果、一つひとつの打ち手が薄まり、戦略が効果性を失う。そして結局、どれも中途半端に終わってしまう。この悪循環に、実に多くの中小企業が陥っています。

本記事では、ドラッカーが説いた「戦略目標の設定」と「事業の目的」の考え方を、中小企業の現場でどう使うのかという視点で整理していきます。集中とは何を捨てることなのか、そして捨てるための具体的な手順まで、順を追ってお伝えします。

戦略目標の設定でつまずく本当の理由

戦略が機能しない会社には、共通した特徴があります。それは「やらないことが決まっていない」ということです。

やることは、いくらでも増やせます。新商品、新規開拓、SNS発信、業務のデジタル化、人材採用。どれも大切に見えます。だからこそ全部やろうとする。しかし経営資源、とりわけ中小企業のヒト・モノ・カネ・時間は有限です。十の目標に十分の一ずつの力を注いでも、どれ一つ突き抜けません。

ドラッカーは、「まず、やらないことを決めよ」と言いました。成果をあげるためには、効果のある一点に集中する必要がある。そしてそのためには、効果のない多くのことを捨てる必要がある。これがドラッカーの説く集中の本質です。

「事業の目的」に立ち返ると優先順位が見える

何を捨て、何に集中するのか。その判断基準になるのが「事業の目的」です。ドラッカーは、事業の目的は「顧客の創造」であると言い切りました。自社の売上や都合ではなく、顧客にとっての価値から逆算して考える。すると、数ある打ち手のどれが本当に顧客を生み出しているのかが見えてきます。

たとえば、地域の工務店が「受注を増やしたい」という漠然とした目標を掲げても、打ち手は絞れません。ですが「事業の目的は、地域の子育て世帯に安心して長く住める家を届けること」と定義し直すと、力を注ぐべき場所がはっきりします。子育て世帯向けの間取り相談、アフター保証の充実、施主の声の発信。逆に、法人向けの大型物件への参入は「今はやらない」と判断できる。目的が決まると、捨てるものが決まるのです。

戦略目標を三つに絞る

混乱した数々の戦略を整理し、本当に重要な三点ほどを重点目標として絞る。これが集中の第一歩です。なぜ三つなのか。人も組織も、同時に本気で追える目標はそう多くないからです。四つ、五つと並べた時点で、それは「絞った」ことになりません。

すでに立ててあるものの効果がなくなっている戦略は、思い切って廃棄する。そして本当に効果のある打ち手に、人と時間とお金を寄せていく。この決断こそ、経営者にしかできない仕事です。

戦略の棚卸しをする四つの手順

集中を実現するには、まず現状を見える化する必要があります。以下の手順で、自社の戦略を棚卸ししてみてください。

一つ目。いま走っている施策・戦略を、すべて紙に書き出す。頭の中にあるものも、担当者任せになっているものも、漏れなく一覧にします。多くの会社で、書き出しただけで二十も三十も出てきます。

二つ目。それぞれの施策について、「この一年で目に見える成果が出ているか」を正直に評価する。出ている、微妙、出ていない、の三段階で十分です。感覚ではなく、できれば数字で判断します。

三つ目。「出ていない」ものと「微妙」なものを、廃棄候補として横に分ける。惜しい気持ちが出ますが、これまでかけたコストは戻りません。今後の資源をどこに使うかだけで判断します。

四つ目。残った「成果が出ている」ものの中から、事業の目的に照らして最重要の三つを選ぶ。この三つに、廃棄で浮いた人と時間を集中投下します。

中小企業だからこそ集中が効く

大企業は資源が豊富なので、多方面に手を広げても、ある程度は形になります。しかし中小企業はそうはいきません。だからこそ、集中の効果が最も大きく出るのが中小企業なのです。

十人の会社が、一つのことに全員で本気で取り組んだときの突破力は、百人が十のことに分散している大企業を、局地戦では上回ります。ランチェスターの発想とも通じますが、勝てる一点を見定めて、そこに全力を注ぐ。これが小さな会社の王道です。

集中は組織全体に広げる

集中は、経営者一人の頭の中で完結するものではありません。組織の全社員にも同様に言えることです。

まず各人が「やらないこと」を決める。本当に重要な数点に集中させ、最後までやりきってもらう。すると一人ひとりの仕事に手応えが生まれ、組織全体として成果が上がっていきます。これをドラッカーの成果集中の原則と言います。

現場でこれを機能させるには、経営者が「やらないと決めたこと」を明言することが欠かせません。「今期は◯◯には手を出さない」とトップが言い切る。そうして初めて、社員は安心して重点業務に力を注げます。あれもこれもと号令だけかけ続ける経営者のもとでは、社員は疲弊し、集中は生まれません。

リーダーはまず戦略を棚卸しして、効果の上がっていないものをすべてストップしてください。戦略に集中が生まれ、そこから確かな効果が生まれます。

まとめ

効果的な戦略目標の設定とは、新しいことを足すことではなく、やらないことを決めることから始まります。ポイントを整理します。

成果があがらない最大の原因は、やるべきことが多すぎること。まず「やらないこと」を決め、効果のある一点に集中する。判断基準は「事業の目的=顧客の創造」に置く。戦略を棚卸しして効果のないものを廃棄し、重点目標を三つほどに絞る。そして集中を経営者だけでなく組織全体に広げる。

捨てる勇気こそ、戦略の要です。今日から自社の施策をすべて書き出し、廃棄できるものを一つ見つけるところから始めてみてください。

戦略目標の設定に関するよくある質問

戦略目標はいくつまで絞るのが良いですか?

本当に重要な三点ほどが目安です。四つ、五つと並べた時点で集中は失われます。人も組織も、同時に本気で追える目標は限られています。まずは三つに絞り、やりきってから次を考えるほうが、結果的に多くを達成できます。

「事業の目的」と「戦略目標」はどう違うのですか?

事業の目的は「なぜこの事業をやるのか」という土台であり、ドラッカーはそれを「顧客の創造」と定義しました。戦略目標は、その目的を実現するために「この期間で何を達成するか」という具体的なゴールです。目的が北極星、戦略目標がそこへ向かう当面の到達点、とイメージすると分かりやすいでしょう。

やめると決めた戦略に未練が残ります。どう踏ん切りをつければ良いですか?

これまでかけた費用や労力は、やめても戻ってきません。過去のコストで判断せず、「今後の限られた資源を、どこに使えば最も成果が出るか」だけで考えてください。廃棄は損失ではなく、勝てる一点に力を移すための投資です。

社員が多くの業務を抱えて集中できません。どうすれば良いですか?

経営者が「やらないこと」を明言することが第一歩です。トップが「今期は◯◯に手を出さない」と言い切ることで、社員は安心して重点業務に集中できます。各人にも重要な数点を選ばせ、それをやりきることに責任を持ってもらいましょう。

中小企業でも戦略の集中は本当に効果がありますか?

むしろ資源の限られた中小企業ほど、集中の効果は大きく出ます。少人数で一点に全力を注げば、多方面に分散した大企業を局地戦で上回ることも十分に可能です。勝てる一点を見定めて全力を注ぐことが、小さな会社の王道です。

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