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経営の目的は環境に順応(屈服)することではない。環境変化を機会として新たな価値創造に挑戦する姿勢にこそ、経営の本質がある。
経営の目的は、顧客(ファン)を創り続けていくことです。顧客を創造して、はじめて事業を成立させることができます。
顧客創造とは、新しい顧客を継続して生み増やし続けていくということです。大切なのは、既存顧客の維持のみではない、ということです。
「企業の目的の定義は一つしかない。それは顧客を創造することである。」とドラッカーも断言します。(引用:「経営の哲学」著者:P.F.ドラッカー/編訳:上田惇生/発行:ダイヤモンド社)
この記事でまとめたこと
顧客創造とは何か──「新たな顧客価値を創る」という経営の出発点
顧客創造という言葉は、しばしば「新規顧客をたくさん集めること」と受け取られます。けれども、ドラッカーが言う顧客創造は、それよりずっと深いところを指しています。
顧客創造とは、これまで満たされていなかった欲求を掘り起こし、それに応える新しい価値をこの世に生み出すことです。値引きや広告で一時的にお客様を呼び込むことではありません。「この商品・サービスがあってよかった」と心から思ってもらえる価値を、新しく創り出すこと。その結果として、顧客が生まれる。順番はいつも、価値が先で、顧客が後です。
ここに、経営を考えるうえでの大切な視点があります。市場や顧客は、どこかにあらかじめ存在していて、それを奪い合うものではありません。企業が新しい価値を提示したときに、はじめて顧客は姿を現します。つまり顧客は、企業の外側にある与件ではなく、企業が創り出すものなのです。
環境順応の経営と顧客創造の経営
経営には2つあります。環境順応の経営と顧客創造の経営です。
環境順応の経営とは、景気に連動して業績も上がり下がりすることを言います。
不景気の時代では、売り上げが下がるのは仕方ないことだ、と考えます。
対して、顧客創造の経営とは、景気に踊らされず、顧客を創造し続けます。不況環境にも敢然と立ち向かいます。
景気を言い訳にする経営、景気を超えていく経営
環境順応の経営は、一見すると堅実で、真面目にも見えます。景気が良ければ伸び、悪ければ縮む。世の中の流れに素直に従っているのですから、責められるところはないように思えます。
しかし、この姿勢には落とし穴があります。業績を左右する主導権を、自社の外側──景気や市場環境──に丸ごと預けてしまっているのです。うまくいかない理由をいつも外に求めていると、経営者も社員も、自分たちの手で未来を変えられるという感覚を少しずつ失っていきます。
顧客創造の経営は、ここが違います。景気が悪いという事実そのものは変えられません。けれども、その環境の中で自社に何ができるかを問い続ける。同じ不況を、多くの会社が「売上減の言い訳」に使う一方で、顧客創造の経営者は「他社が守りに入っている今こそ、新しい価値を提案する好機だ」と読み替えます。環境は同じでも、そこから引き出す答えがまるで違うのです。
事例:山ガールという「創られた顧客」
近年、山ガールが大流行しました。ファッショナブルなウェアに身を包み、山登りを楽しむ女性達です。
筆者は、京王線沿いに住んでいたのですが、週末になると高尾山に登る女性で電車内はごった返し、麓は繁華街のように混み、リフトが90分待ちになる勢いです。
6,7年前まではこのような光景はありませんでした。
山ガールは、女性向けのファッショナブルなウェアを提供したアパレルメーカーと、山側もトイレ環境を整えたりして、新たに創造された顧客なのです。ビジネスが新たな顧客を創造したのです。
ここで見落としてはならないのは、「山に登りたい女性」は、実は以前から存在していたということです。需要がなかったのではありません。需要を受け止める価値のほうが、まだ用意されていなかったのです。おしゃれな装いで山を楽しみたいという気持ちに応えるウェアが登場し、女性が安心して過ごせる環境が整った。そのとき、それまで表に出てこなかった欲求が一気に顧客として顕在化しました。これこそ、顧客創造の典型的な姿です。
顧客創造の経営は、創造性に富み、機会志向です。
景気に囚われず、市場の常識を覆し、新しい顧客を創造します。
事業に創造性と勇気を与え、未来へ挑戦させる経営、それが、顧客創造の経営です。
中小企業こそ顧客創造で勝負すべき理由
「顧客創造などという大きな話は、資金力のある大企業のものだ」と感じる中小企業の経営者は少なくありません。しかし実際は逆です。体力勝負・価格勝負になれば、規模で勝る相手にはかないません。中小企業が生き残り、伸びていく道は、大企業が見落としている非顧客に、独自の価値を届けることにあります。
まず「非顧客」を見つける
顧客を創造する時には、非顧客(自社を利用してもおかしくないのに、未だ利用していないお客様)に注目します。
前例の山ガールは、非顧客でした。
山に行きたいと思う女性は、多くいたのです。しかし、お洒落なウェアが無い、トイレ環境が悪いといった状況があり、登山をできずにいたのです。非顧客が顧客化したときに、ブレイクスルーが起きます。
自社の非顧客を探すときは、次のように問いを立ててみてください。
・自社の商品を「本当は必要としているはずなのに」買っていない人は誰か。
・その人たちは、なぜ今、買っていないのか。値段か、知らないからか、使いにくいからか、それとも別の何かか。
・その障害を一つ取り除けたら、その人は顧客になり得るか。
答えは、既存のお客様に聞いても出てきません。すでに買っている人ではなく、買っていない人の中にこそ、次の市場が眠っているからです。
顧客創造を実務に落とす5つのステップ
顧客創造を掛け声で終わらせないために、中小企業の現場でそのまま使える手順に整理します。
1. 自社の事業を「何を売っているか」ではなく「顧客のどんな用事を片づけているか」で言い換える。ドリルを売っているのではなく、穴を空けたいという欲求に応えている、という視点です。
2. その用事を、まだ満たせていない人(非顧客)を具体的に一人思い浮かべる。年齢・仕事・困りごとまで踏み込みます。
3. その人が買わない理由を、値段・認知・使い勝手・心理的な壁に分けて書き出す。
4. 一番大きな壁を一つだけ選び、それを取り除く小さな試みを、コストをかけずに試す。
5. 反応を見て、手応えのあったものに資源を集中する。
大がかりな設備投資や新商品開発から始める必要はありません。「これまで取りこぼしていた人に届く工夫」を一つ加えるだけで、顧客創造は動き出します。
現在、事業は右肩上がりですか?
日本のほとんどの市場が、停滞期・衰退期に入っている状況です。
このような時代においては、環境順応の経営では、市場に翻弄され、経営も勇気を失います。
市場が停滞している時期こそ、顧客創造の経営に最大の意義があります。
ある社長の言葉──衰退事業で使命に目覚める
セミナーに参加頂いた社長にお聞きして、深く印象に残っていることがあります。
「祖父から受け継いだ事業は衰退事業です。ここ数年は売上の維持がやっとで、成長も見込めません。
そんな中、暗中模索で経営をしている状況でした。しかし顧客創造の経営のコンセプトを聞き、起業家としての使命に目覚めました。
ドラッカーを知った今、心からこの事業で社会に貢献したいと思っております。顧客創造の経営は、新たに挑戦する勇気をくれました。」
衰退事業だから終わり、なのではありません。衰退しているように見える市場の中にも、まだ満たされていない欲求は必ず残っています。見る角度を変え、非顧客に目を向けたとき、事業はもう一度息を吹き返します。
「経済的な成果は、景気の良し悪しによってもたらされるのではない。人によって実現されるのである。
(引用:創造する経営者 著者:P.F.ドラッカー/訳:上田惇生/発行:ダイヤモンド社)」とドラッカーも、起業家の挑戦的姿勢の重要性を強調します。
市場は飽和しない──飽和するのは経営者の頭の中だけ
市場は飽和することなどありません。飽和するのは、経営者の頭の中だけです。
「もうこの業界は成熟しきっている」「うちの地域では、これ以上お客は増えない」。こうした言葉は、市場の事実を語っているようでいて、実は経営者自身の思い込みを語っていることが少なくありません。かつて家庭用ゲームも、宅配便も、コンビニのコーヒーも、「そんな需要はない」と言われた地点から生まれました。需要がなかったのではなく、需要を受け止める価値がまだ差し出されていなかっただけなのです。
常識を疑い、市場に挑戦すれば、打ち手は無限です。顧客創造の経営で、ブレイクスルーを起こすのです。
今回のポイント
経営の本質は、顧客の維持ではなく、顧客創造である。
顧客創造の経営と環境順応の経営

動画:事業の目的は顧客の創造である
まとめ
経営の目的は、環境に順応することではなく、新たな顧客価値を創り続けること──ここに顧客創造の経営の本質があります。景気や市場環境を業績の言い訳にする環境順応の経営に対し、顧客創造の経営は、同じ環境の中でも「自社に何ができるか」を問い続けます。
その出発点は、非顧客に目を向けることです。すでに買っている人ではなく、本当は必要としているのにまだ買っていない人。その人が買わない理由を一つずつ取り除いていく先に、新しい顧客が生まれます。山ガールも、衰退事業からよみがえった社長の事業も、根っこは同じです。
市場は飽和しません。飽和するのは経営者の頭の中だけです。停滞の時代だからこそ、顧客創造の経営には最大の意義があります。まずは自社の非顧客を一人、具体的に思い浮かべることから始めてみてください。
顧客創造に関するよくある質問
Q1. 顧客創造と新規顧客の獲得は、何が違うのですか?
新規顧客の獲得は、すでにある市場の中でお客様を集めることを指すことが多く、広告や値引きといった手段が中心になりがちです。一方で顧客創造は、これまで満たされていなかった欲求に応える新しい価値を生み出し、その結果として顧客が生まれることを指します。価値が先、顧客が後、という順番が顧客創造の考え方です。
Q2. 中小企業でも顧客創造はできますか?資金力がないと難しいのでは?
むしろ中小企業こそ取り組むべき経営です。規模や価格で勝負すれば大企業にはかないませんが、大企業が見落としている非顧客に独自の価値を届けることは、小回りのきく中小企業の得意分野です。大きな設備投資は必要ありません。取りこぼしていた人に届く工夫を一つ加えるところから始められます。
Q3. 「非顧客」とは具体的にどういう人を指しますか?
自社の商品やサービスを利用してもおかしくないのに、まだ利用していない人のことです。本当は必要としているのに、値段・知名度・使い勝手・心理的な壁などが理由で買えずにいる人たちを指します。この非顧客が顧客に変わったとき、事業に大きなブレイクスルーが起こります。
Q4. 市場が成熟・衰退していても、顧客創造は可能ですか?
可能です。市場は本当の意味では飽和しません。成熟・衰退しているように見える市場にも、まだ満たされていない欲求は必ず残っています。見る角度を変え、非顧客に目を向けることで、衰退事業からでも新しい顧客を生み出すことができます。停滞の時代こそ、顧客創造の意義は大きくなります。
Q5. 顧客創造を実務で始めるには、まず何をすればよいですか?
まず、自社の事業を「何を売っているか」ではなく「顧客のどんな用事を片づけているか」で言い換えてみてください。次に、その用事を満たせていない非顧客を具体的に一人思い浮かべ、その人が買わない理由を書き出します。一番大きな壁を一つ選び、それを取り除く小さな試みをコストをかけずに試す。この一歩から顧客創造は動き出します。
書籍『ドラッカーが教えてくれる 人を活かす経営7つの原則』
リーダーシップとは権力ではない。働く人を活かし、成果を上げる「責任」である。経営の中心は『人間の尊厳』にあるべきだと亡きドラッカーは訴えた。現代リーダーのための現場で実践できる『人間中心の経営』『立志の指南書』

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