今回は、中小企業が市場で生き残るための「差別化戦略」について、ドラッカーの視点から解説します。差別化とは何か、なぜ差別化ができていないと価格競争に巻き込まれるのか、そして限られた経営資源しか持たない中小企業がどうやって差別化を実現していくのか。具体例と実務の手順を交えてお伝えします。

差別化するということは、顧客に値切られずに買ってもらえるということである。(ドラッカー)

差別化戦略とは何か──「値切られない」が差別化のものさし

市場の中で、顧客に競合よりも優先して自社の商品・サービスを選んでもらうためには、「差別化」をする必要があります。差別化戦略とは、他社と同じ土俵で価格を削り合うのではなく、「この会社でなければならない理由」をつくり出し、その理由で選ばれ続ける状態をつくる経営の考え方です。

では、自社が差別化できているかどうかは、どう判断すればよいのでしょうか。最もわかりやすいものさしが、「顧客に値切られるかどうか」です。

ライバルと価格勝負になり、顧客が価格のみで商品・サービスの購入を決めているとしたら、それは差別化できていないということです。逆に、多少高くても「あなたのところにお願いしたい」と言われ、値引き交渉が起きないのであれば、その会社は確かに差別化できています。

これは中小企業にとって、とりわけ重い意味を持ちます。大企業は資金力で価格を下げても体力が持ちますが、中小企業が価格競争に巻き込まれれば、利益が削られ、やがて事業そのものが立ちゆかなくなります。だからこそドラッカーは「差別化するか、さもなくば死か」という厳しい言葉で、その重要性を語ったのです。

なぜ今、差別化が欠かせないのか

only Valueが必要なのは、モノ余りの時代だからです。かつてのように、よい商品をつくれば黙っていても売れる時代は終わりました。世の中には似たような商品・サービスがあふれ、顧客はいつでも他社に乗り換えられます。

ランチに行く時のことを思い出してください。誰もがレストラン・カフェ・お弁当・ファーストフードなどの中から、迷ってから決めます。顧客は常に、競合と比較して迷っているのです。

迷い子である顧客に対して、「自社の商品でなければ、あなたの満足は得られません」ということを、きっちり伝える。これができる会社だけが選ばれます。ところが実際には、多くの企業がOnly Value(明確な差別化)を持たないままビジネスを行っています。これからは、経営者だけでなく全社員がOnly Valueを理解し、競合との違いを顧客に提示できなければなりません。

差別化の究極「Only Value」を確立する

Only Valueとは、独自の差別化(他社と違って特別である)という、顧客に選ばれる一番の理由を表す言葉です。

身の回りの持ち物──スーツ・シャツ・ネクタイ・ペン・バッグ・時計・あらゆるものを見渡してみてください。理由なく購入したものは、何一つないと思います。

マーケティングとは「消費者の視点」で考えることです。消費者は、明確な理由がないのに購入するものは何一つありません。

そこで、経営者の方に問いかけたいことがあります。「なぜ自社の商品を購入する必要があるのか、競合の商品ではいけないのか?」を、あなたは説明できますか。

もしこの理由が説明できなければ、顧客から、あなたの会社の商品を買ってもらうことは不可能です。裏を返せば、この一文を言葉にできたとき、差別化戦略は動き出します。

中小企業だからこそ築けるOnly Value

「差別化といっても、うちのような小さな会社には特別な技術も資本もない」──そう感じる経営者は少なくありません。しかし、中小企業の差別化は、必ずしも大きな設備投資や画期的な新技術を必要としません。むしろ規模が小さいからこそ築けるOnly Valueがあります。

たとえば、次のような切り口です。

対応の速さ。大企業なら何日もかかる見積もりや修理を、その日のうちに返す。

一貫した担当者。窓口がころころ変わらず、社長や熟練の担当者が最初から最後まで責任を持つ。

特定分野への集中。あらゆる顧客を狙うのではなく、ある業種・ある地域・ある課題に絞り込み、そこでは誰よりも詳しい存在になる。

顧客との関係の深さ。長年の取引で相手の事情を知り尽くし、言われる前に提案できる。

これらはいずれも、規模の小さい会社ほど実現しやすいものです。差別化は、必ずしも「新しさ」ではなく、「その会社だからできること」を突き詰めることから生まれます。

Only Value(自社の差別化)の見つけ方

Only Valueの見つけ方には、次の2つの方法があります。

①顧客に聴く

なぜ、他社ではなく、自社を選んでくれているのか。顧客に直接聴きます。これが一番確実な方法です。

顧客が購入する事情は複雑なので、聴かなければ分かりません。企業の中で顧客について想像することの大半は、残念ながら妄想です。馬鹿だと思われても、顧客に直接質問しなければなりません。

顧客は必ず理由があって、あなたの会社を利用しています。「他社さんもある中で、なぜ続けてうちを選んでくださるのですか」と、勇気を出して聞いてみてください。顧客がOnly Valueを教えてくれます。ここで返ってくる言葉こそ、パンフレットやホームページに書くべき、生きた差別化のメッセージになります。

②「Only Value発見シート」

「Only Value発見シート」とは、決められた文脈に顧客の声を埋めていくワークです。ここで最も重要なのは、その価値が、自社目線ではなく、顧客の声=顧客から見たメリットになっていることです。

Only Valueが顧客に本当に価値があるものか?を、常に自問してみてください。

Only Value発見シート

「性質」と「Only Value」を取り違えない

ここで、多くの会社が陥りやすい落とし穴があります。それは、単なる「性質」をOnly Valueと勘違いしてしまうことです。

私のクライアントに、建設会社さんがいます。研修時に、「わが社のOnly Valueは、都内の繁華街にあることだ」との意見が出ました。これはどうでしょうか。

カラオケ・飲み屋ならありでしょう。しかし、顧客が建設会社を選ぶときに、繁華街にあるかどうかを重視しないとしたら、それはOnly Valueではありません。

顧客への価値を生まないものはOnly Valueではなく、単なる商品の「性質」にすぎないのです。性質とOnly Valueは違います。「創業50年」「社員100名」「最新設備」といった事実も、それ自体では性質です。「創業50年だから、他社が断る特殊な工事も蓄積した経験で引き受けられる」というように、顧客のメリットへと翻訳できて初めてOnly Valueになります。

Only Valueを確立し、明確に差別化すると、その会社はブランドとして認識されます。ブランドを値切る人はいません。ブランドとなれば、高い収益を獲得することができるのです。ドラッカーもさまざまな著書の中で、差別化の重要性について繰り返し強調しています。

Only Valueは顧客に伝わらなければ、存在しないのと同じである

どれほど優れたOnly Valueを持っていても、なんとなく分かっているだけでは意味がありません。顧客に伝わらなければ、存在しないのと同じです。

たとえば、丁寧なアフターフォローという強みがあっても、それを言葉にして伝えていなければ、顧客は「どこも同じだろう」と考え、価格で選んでしまいます。強みは、語られて初めて差別化になります。

そこで、明確なOnly Valueを確立したうえで、全社員が”意識して”伝えられる状態にする必要があります。名刺、ホームページ、見積書、営業トーク、電話応対──顧客と接するあらゆる場面で、同じOnly Valueが一貫して伝わっているか。ここを揃えることが、中小企業の差別化戦略を「絵に描いた餅」で終わらせないための、最後にして最大の実務です。

今日から始める差別化の実務ステップ

差別化戦略は、次の手順で進めると着実です。

第一に、既存の優良顧客3〜5社に「なぜうちを選び続けてくれるのか」を直接聴く。

第二に、返ってきた言葉を、自社目線ではなく顧客のメリットとして書き出す。

第三に、その中から競合が真似しにくいものを選び、Only Valueとして一文にまとめる。

第四に、その一文を、名刺・ホームページ・見積書・営業トークにそのまま反映させる。

第五に、全社員で共有し、誰が対応しても同じ価値が伝わる状態をつくる。

小さな一歩ですが、この積み重ねが「値切られない会社」への道です。

今回のポイント

Only Value(差別化)を確立し、全社員が理解し、顧客に伝え続ける。これが、価格競争から抜け出し、中小企業が生き残るための土台になります。

差別化については、動画でも解説しています。

まとめ

差別化戦略とは、価格ではなく「この会社でなければならない理由」で選ばれる状態をつくることです。差別化できているかどうかは、顧客に値切られるかどうかで測れます。

その差別化の核となるのがOnly Value──顧客が自社を選ぶ、たった一つの理由です。中小企業は、対応の速さ、担当者の一貫性、特定分野への集中、関係の深さといった、規模が小さいからこそ築ける強みを持っています。

Only Valueは、顧客に直接聴くこと、そして顧客目線のメリットとして言葉にすることから見つかります。単なる「性質」と取り違えないこと、そして見つけた価値を全社員が一貫して伝え続けることが、差別化戦略を成果に変える鍵です。値切られない会社は、必ず築けます。

差別化戦略に関するよくある質問

Q. 差別化ができているかどうかは、どうやって判断すればよいですか?

最もわかりやすいものさしは、「顧客に値切られるかどうか」です。価格交渉が頻繁に起きたり、相見積もりで価格だけを比べられているなら、差別化はまだ十分ではありません。多少高くても「あなたにお願いしたい」と言われるなら、その会社は差別化できています。

Q. 中小企業に、大企業と戦えるような差別化はできるのでしょうか?

できます。中小企業の差別化は、大きな設備や新技術を必要とするとは限りません。むしろ、対応の速さ、担当者の一貫性、特定分野への集中、顧客との関係の深さなど、規模が小さいからこそ実現しやすい強みがあります。「その会社だからできること」を突き詰めることが、有効な差別化戦略になります。

Q. Only Value(自社の差別化)は、どうやって見つければよいですか?

一番確実なのは、既存の優良顧客に「なぜ他社ではなく、うちを選び続けてくれるのか」を直接聴くことです。返ってきた言葉を、自社目線ではなく顧客のメリットとして書き出し、その中から競合が真似しにくいものを一文にまとめます。社内での想像だけで決めないことが大切です。

Q. 「強み」と「Only Value」は同じものですか?

似ていますが、区別が必要です。「創業50年」「都心にある」「最新設備」といった事実は、それだけでは単なる「性質」にすぎません。それが「他社が断る特殊な工事も引き受けられる」というように顧客のメリットへ翻訳できて初めて、Only Valueになります。顧客への価値を生まないものは、Only Valueとは呼べません。

Q. 差別化は、まず何から始めればよいですか?

まずは優良顧客3〜5社に、選ばれている理由を直接聴くことから始めてください。その言葉を顧客目線のメリットとしてまとめ、Only Valueを一文にし、名刺・ホームページ・見積書・営業トークに反映させます。そのうえで全社員が一貫して伝えられる状態をつくれば、差別化は成果につながります。

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