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この記事でまとめたこと
顧客から永続的に利益を得るとはどういうことか
一度きりの取引で最大の利益を取ろうとするか、それとも長い付き合いのなかで少しずつ利益を積み重ねていくか。この選び方が、会社の寿命を決めます。
ドラッカーが繰り返し説いたのは、企業の目的は「顧客の創造」であり、さらに言えば「創造した顧客を維持し続けること」だという考え方でした。新しいお客様を集めることばかりに気を取られると、すでに買ってくださっているお客様を軽んじてしまいます。ところが、会社の利益の大半は、実は既存のお客様がもたらしてくれているのです。
顧客が生涯を通じて自社にもたらしてくれる利益の総額を、マーケティングの世界では顧客生涯価値と呼びます。この視点を持つと、目の前の一回の売上ではなく、その方と何年、何十年と付き合っていくなかで生まれる利益の全体像が見えてきます。中小企業こそ、この考え方を経営の土台に据えるべきです。
主婦の買い物が示す「一生分の利益」
たとえば、ある主婦がスーパーで一日に使うお金は二千円に満たないかもしれません。しかし、その方が近所の同じ店で買い物を続ければどうでしょうか。仮に一日二千円として、月に六万円、年に七十二万円。それが十数年続けば、一人のお客様が一千万円もの売上をもたらしてくれる計算になります。
一人のお客様の背後には、こうした「一生分の利益」が隠れています。ところが、その日の売上を上げたいばかりに、傷んだ魚を口先うまく売りつけたらどうなるか。そのお客様は二度とその店に足を運びません。目先の数百円のために、一千万円の未来を捨てているのです。
マーケターは、目の前の利益に目を奪われて、顧客から得られるはずだった長期的な利益を見失ってはいけません。老舗と呼ばれる店に、長い信頼関係で結ばれたお客様が多いのは偶然ではありません。長く続く関係を大切にしてきたからこそ、経営が安定し、代を重ねてこられたのです。
なぜ多くの企業が顧客維持を軽んじてしまうのか
顧客との長期的な関係が大切だと頭ではわかっていても、実際にそれを経営の中心に据えている企業は、意外なほど少ないものです。理由はいくつかあります。
一つは、新規のお客様を獲得したときの喜びのほうが目に見えやすいことです。契約が取れた、注文が入った、という瞬間は達成感があります。一方で、既存のお客様が静かに満足し続けている状態は、成果として実感しにくい。だから、つい新規開拓ばかりに力が入ってしまいます。
もう一つは、短期の数字で評価される仕組みです。今月の売上、今期の利益。それを追ううちに、来年も再来年も買い続けてくださる関係を育てるという、時間のかかる仕事が後回しになります。
しかし冷静に考えれば、新しいお客様を一人獲得するコストは、既存のお客様に再び買っていただくコストの何倍もかかると言われます。集客に費用をかけ続けても、獲得したお客様が次々に離れていくのなら、穴の空いたバケツに水を注いでいるようなものです。中小企業のように広告予算が限られている会社ほど、この「バケツの穴」をふさぐことが利益への近道になります。
顧客を「パートナー」として捉え直す
大切なのは、次の二つの姿勢を全社で共有することです。
一つ、顧客のパートナー、いわば身内としての関係を築くこと。売り手と買い手という対立の構図ではなく、お客様の成功や満足を自社の喜びとする立場に自らを置きます。
二つ、顧客と永続的に取引を続けることを前提に、関係を組み立てること。今回の一回で終わりではなく、次も、その次もお付き合いいただく。そう考えれば、目の前の対応の一つひとつが変わってきます。
これは営業担当者だけの心構えではありません。マーケティングを軸に据える会社として、全社を挙げて持つべき精神です。
中小企業が今日から始められる顧客維持の実務手順
考え方を理解しても、実務に落とし込めなければ意味がありません。限られた人手と予算のなかで、中小企業が無理なく始められる手順を挙げておきます。
一、お客様の名簿を整える。誰が、いつ、何を買ってくださったか。まずはこれを一元的に把握できる状態を作ります。高価なシステムは不要で、表計算ソフト一つからで十分始められます。
二、優良なお客様を見分ける。名簿を眺めると、繰り返し買ってくださる方、金額の大きい方が見えてきます。全員に同じ労力をかけるのではなく、こうした方々にこそ丁寧な対応を厚くします。
三、購入後の一声を仕組みにする。買っていただいた後に、使い心地を尋ねる、お礼を伝える。この一手間があるかないかで、次の来店やリピートの確率は大きく変わります。
四、定期的な接点を絶やさない。ニュースレター、季節の便り、有益な情報の提供。売り込みではなく、役に立つ情報を届け続けることで、お客様の記憶のなかに自社が残り続けます。
五、離れかけたお客様に気づく。しばらく購入のない方に気づける仕組みを持ち、こちらから声をかける。多くの場合、お客様は不満があって離れたのではなく、ただ忘れているだけです。
こうした地道な積み重ねが、顧客生涯価値を最大化し、会社に永続的な利益をもたらします。
ポイント
・自社を、顧客の立場に置き、永続的なパートナー関係へと進化させる。
・短期的な利益ではなく、顧客から得られる長期的な利益を考えたビジネスへと進化させる。
・新規獲得と同じかそれ以上の熱量で、既存顧客の維持に取り組む。
まとめ
顧客から永続的に利益を得るとは、一回の取引で最大の利益を絞り取ることではなく、一人のお客様と長く付き合い、その生涯を通じてもたらされる利益の総額、すなわち顧客生涯価値を大切にすることです。
主婦の一日の買い物がやがて一千万円になるように、一人のお客様の背後には長い時間分の利益が隠れています。目先の売上のためにその信頼を裏切れば、未来の利益もろとも失います。老舗が長く続くのは、長期の信頼関係を何より大切にしてきたからにほかなりません。
新規開拓ばかりに力を注ぎ、既存のお客様を軽んじるのは、穴の空いたバケツに水を注ぎ続けるようなものです。名簿を整え、優良なお客様を見分け、購入後の一声を仕組みにし、定期的な接点を絶やさず、離れかけたお客様に気づく。こうした地道な実務こそが、リピートと顧客維持を生み、中小企業に安定した利益をもたらします。顧客をパートナーとして捉え直すこの姿勢を、全社の共通の精神として根づかせていきましょう。
顧客生涯価値に関するよくある質問
顧客生涯価値とは何ですか。
一人のお客様が、取引を始めてから終えるまでの間に、自社にもたらしてくれる利益の総額を指します。一回あたりの売上ではなく、長い付き合い全体で生まれる価値を見る考え方です。この視点を持つと、目先の一取引ではなく、そのお客様との関係全体をどう育てるかという発想に変わります。
なぜ新規顧客の獲得より顧客維持のほうが大切だと言われるのですか。
新しいお客様を一人獲得するには、広告や営業に相応の費用がかかります。一般に、その費用は既存のお客様に再び買っていただく費用の何倍にもなると言われます。獲得したお客様が次々に離れていくのでは、集客の費用が報われません。既存のお客様に長く付き合っていただくほうが、少ない費用で安定した利益を生むのです。
中小企業でも顧客生涯価値を高める取り組みはできますか。
できます。むしろ予算や人手が限られる中小企業こそ効果が大きい取り組みです。高価なシステムは要りません。お客様の名簿を表計算ソフトで整え、繰り返し買ってくださる方に丁寧に対応し、購入後にひと声かけ、定期的に役立つ情報を届ける。こうした身の丈に合った工夫の積み重ねで、リピートと顧客維持は着実に伸びます。
リピート率を上げるために、まず何から始めればよいですか。
まずはお客様の記録を残すことから始めてください。誰が、いつ、何を買ってくださったかがわかれば、優良なお客様が見え、離れかけた方にも気づけます。そのうえで、購入後のお礼や使い心地の確認といった小さな一声を仕組みにするのが効果的です。特別な仕掛けよりも、当たり前のことを続ける体制づくりが先です。
ドラッカーは顧客維持についてどう述べていますか。
ドラッカーは、企業の目的は顧客の創造にあると説きました。そしてその考えは、創造した顧客を維持し続けることまでを含みます。売り手と買い手という関係を超えて、お客様のパートナーとして永続的な関係を築くこと。それを一部の担当者ではなく、マーケティングを軸とする会社として全社で担うことを、ドラッカーの理論は求めています。
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