「日常の仕事が忙しすぎて、事業をじっくり考える時間が取れません。いい方法はないですか?」
これは、セミナーの中で経営者の方からいただく質問の中でも、とりわけ多いものです。売上、資金繰り、人の問題、日々のトラブル対応。目の前の仕事に追われているうちに一日が終わり、気がつけば一年が過ぎている。多くの中小企業の経営者が、同じ悩みを抱えています。

現業務に追われ、事業の未来を考える時間を確保できていない。これは決してあなただけの問題ではありません。ただ、ここで立ち止まって考えていただきたいのです。あなたの会社で、事業の未来を描けるのは誰でしょうか。従業員でも、取引先でもありません。リーダーであるあなたしか、それをできる人はいないのです。

だからこそ、経営者は事業の未来を考える時間を、戦略的に確保しなければなりません。ここでいう「戦略的」とは、余った時間で考えるのではなく、あらかじめ計画して時間を割り当てる、という意味です。この記事では、ドラッカーの経営思想をもとに、中小企業の経営者が実践できる時間管理の考え方と、その具体的な進め方をお伝えします。

なぜ経営者ほど「未来を考える時間」が奪われるのか

経営者の一日は、割り込みの連続です。従業員からの相談、顧客からの電話、金融機関との打ち合わせ、突発的なクレーム。こうした対応は、どれも「今すぐ」を求めてきます。一方で、三年後の事業をどうするか、新しい商品をどう育てるかという問いは、誰かが「今すぐやってください」と迫ってくるわけではありません。

ここに、時間管理の落とし穴があります。緊急なものは、放っておいても勝手に時間を奪っていきます。しかし、重要だが緊急ではないもの、つまり事業の未来に関わることは、意識して守らなければ、いつまでも後回しにされてしまうのです。忙しい経営者ほど、この構造にはまり込みます。

未来のことは、締め切りがないから、いつでもできる。そう思っているうちに、結局いつまでもできない。多くの会社が成長の踊り場で足踏みしてしまう原因は、経営者の能力ではなく、この時間の使い方にあることが少なくありません。

経営者の時間は3つに分けて考える

ドラッカーは著書『創造する経営者』の中で、経営者の仕事を3つの時間軸で定義しています。自分の時間がどこに、どれだけ使われているかを整理するために、まずこの3つの区分で考えてみてください。

  1. 現事業の成果を上げる時間。(現在の時間)
  2. 事業の未来への機会を探す時間。(未来への時間)
  3. 新事業をつくる時間。(未来への時間)

時系列で見ますと、1は現在に対する取り組み、2と3は未来に対する取り組みです。

1. 現事業の成果を上げる時間

今ある商品・サービスで、確実に成果を出すための時間です。既存顧客への対応、品質の維持、日々のオペレーションの改善などがここに含まれます。会社を今日一日回していくために欠かせない時間であり、多くの経営者は、ほぼこの時間だけで一日が埋まってしまいます。

2. 事業の未来への機会を探す時間

今の延長線上ではなく、これから訪れる変化やチャンスを探す時間です。市場や顧客の変化を観察する、新しい取引先の可能性を考える、既存事業をどう磨き直すかを構想する。戦略立案や経営計画書の作成も、ここに位置づけられます。

3. 新事業をつくる時間

まだ形になっていない、次の柱を生み出すための時間です。新商品や新サービスの企画、新しい顧客層への挑戦などが該当します。今日の売上には直結しませんが、数年後の会社を支えるのは、まさにこの時間から生まれた種です。

大切なのは、2と3という「未来への時間」を、経営者が意識的に取りにいくことです。未来に対する取り組みとは、戦略立案、経営計画書の作成、新規事業や新商品を考えることにほかなりません。あなたは今、どれだけ事業の未来についての取り組みができているでしょうか。

現在だけを見ていては、未来は訪れません。明日を見て、主体的に経営をつくっていく必要があります。

未来のための時間は「自分にアポイントを入れて」確保する

未来に対する時間は、意識して確保しなければ、必ず現業務に食われていきます。「手が空いたら考えよう」では、手が空く日は永遠にやってきません。そこでお勧めしているのが、自分自身とのアポイントを予定に入れてしまう方法です。

手帳やカレンダーに、事業の未来を考える時間を先に枠取りし、予約として押さえてしまう。これを「自分にアポイントを取る」といいます。取引先との約束を勝手に動かさないのと同じように、自分との約束も動かさない。ここまで徹底して、はじめて未来のための時間は守られます。

中小企業の経営者が今日からできる実務手順

具体的には、次のような手順で始めてみてください。特別な道具は必要ありません。手帳が一冊あれば足ります。

  1. まず一週間、自分の時間が実際に何に使われているかを書き出してみる。思い込みではなく、事実を把握することが出発点です。
  2. 毎週、決まった曜日・時間帯に「未来を考える時間」を90分から2時間ほど設定する。たとえば「毎週水曜の午前中は誰とも会わない」と決めてしまいます。
  3. その時間は、電話もメールも遮断し、できれば会社を離れた場所で行う。環境を変えるだけで、思考の質は大きく変わります。
  4. 「今日は新商品について考える」「今日は三年後の組織を描く」と、テーマを一つに絞る。あれもこれもと欲張らないことがコツです。
  5. 考えたことは、必ず紙に書き残す。書くことで思考が整理され、次の週の続きにもつながります。

一人で考える時間を確保するのが難しい、考えても堂々巡りになってしまう、という場合は、コーチやコンサルタントといった外部の存在を使って、強制的に考える時間をつくるのも有効な方法です。第三者との対話は、自分では気づけなかった視点をもたらしてくれます。

卓越した経営者は、未来について考察する時間を、計画的・意識的に確保しています。時間が余ったから考えるのではなく、考えるために時間を先取りしているのです。

ドラッカーの言葉

ドラッカーは『創造する経営者』の中で、こう述べています。

「経営者は、事業の未来についてより多くの時間をかけて、思索をする必要がある。」
「事業の未来について考察しなければ、命運を天に任せることになる。」

命運を天に任せる、という言葉は重いものです。未来を考える時間を持たないということは、自社の行く末を、運や外部環境に丸ごと預けてしまうことを意味します。戦略的な時間管理とは、その命運を自らの手に取り戻すための、最初の一歩なのです。

戦略的な時間管理で、事業の未来を自分の手でつくりあげていきましょう。ご質問、ご意見はお気軽にお寄せください。

まとめ

経営者の時間管理でもっとも大切なのは、「現在の時間」に流されず、「未来への時間」を意識的に確保することです。ドラッカーが示す3つの時間軸、すなわち現事業の成果を上げる時間、未来への機会を探す時間、新事業をつくる時間のうち、放っておくと必ず削られるのが後者の二つです。

だからこそ、自分自身にアポイントを入れ、毎週決まった時間を未来のために先取りする。テーマを一つに絞り、環境を変え、考えたことを書き残す。この地道な習慣が、数年後の会社の姿を大きく左右します。事業の未来を描けるのは、リーダーであるあなただけです。目の前の忙しさに命運を預けてしまう前に、まずは来週、90分の自分とのアポイントを一つ、手帳に書き込むことから始めてみてください。

経営者の時間管理に関するよくある質問

Q. どれくらいの頻度で「未来を考える時間」を取ればよいですか?

まずは週に一度、90分から2時間を目安にすることをお勧めします。毎日は難しくても、週一回であれば多くの経営者が続けられます。大切なのは長さより継続性です。曜日と時間帯を固定し、習慣として定着させることを優先してください。慣れてきたら、月に一度、半日から一日かけてじっくり構想する時間を別に設けると、さらに効果が高まります。

Q. 現業務が忙しすぎて、そもそも時間が取れません。どうすればよいですか?

まずは一週間、自分の時間の使い方を実際に書き出してみてください。多くの場合、本来は任せられる業務を経営者自身が抱え込んでいることに気づきます。未来のための時間を生み出す最初の一歩は、現在の業務を人に任せる、あるいはやめる判断をすることです。時間は「空くのを待つ」ものではなく、「意図的につくる」ものだとお考えください。

Q. 未来を考える時間に、具体的に何をすればよいのか分かりません。

最初は、テーマを一つに絞ることから始めてください。たとえば「三年後、この会社はどんな顧客に何を売っているか」「今の主力商品は五年後も通用するか」といった問いを一つ立て、それだけを考えます。市場や顧客の変化を書き出す、新しい商品のアイデアを箇条書きにする、といった作業でも十分です。答えが出なくても構いません。問い続けること自体に価値があります。

Q. 一人で考えても堂々巡りになってしまいます。

それはごく自然なことです。社内には利害関係があり、経営者が本音で相談できる相手は意外と少ないものです。そうした場合は、コーチやコンサルタントなど、社外の第三者との対話を活用してください。人に説明しようとすることで思考が整理され、自分では気づけなかった論点や機会が見えてきます。強制的に考える時間をつくる仕組みとしても有効です。

Q. 中小企業でも、大企業のような戦略づくりの時間は必要ですか?

むしろ中小企業ほど必要です。大企業には企画部門や専任のスタッフがいますが、中小企業では経営者自身が未来を描かなければ、誰もその役割を担いません。規模が小さいほど、経営者一人の時間の使い方が、会社全体の方向を決めます。だからこそ、大がかりな仕組みでなくとも、手帳に一枠、未来のための時間を確保することから始めていただきたいのです。

ドラッカー研修・コンサルティングの紹介動画

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
もし、自社の経営や組織にドラッカーをどう活かせばよいか、少しでもお悩みでしたら、ここから先もぜひ読んでみてください。ドラッカーに関心をお持ちの経営者・管理職の方への、補足のご案内です。

なぜ、一般的な管理職研修では組織が変わらないのか

ここまでの「強みを見る視点への切り替え」は、今日からでも実践できます。
ただ、正直にお伝えすると、個人の工夫や一度きりの研修だけでは、なかなか続きません。
これも、多くの経営者が同じ壁にぶつかるところなんです。

変化のゆるやかだった時代なら、管理職は決められたことを「管理」するだけで十分でした。
けれど、変化の速い今は違います。求められているのは、
経営者であるあなたと視点を合わせ、現場を一丸にして、自ら組織に変化を生み出す「チェンジリーダー」です。
「管理」の技術だけでは、組織は根っこから変わりません。

根本の答えはドラッカーにある。でも“普通のドラッカー”では実践できない

生産性、部下育成、理念の浸透、組織の元気――。
こうした悩みの根っこを解くヒントは、実はそのすべてが、ドラッカーの原理原則の中にあります。
だからこそ、目先の技術を教える一般的な研修ではなく、ドラッカーの本質を学ぶ研修が必要なのです。

とはいえ、ここで多くの方がつまずきます。ドラッカーの原著は、分厚くて、正直とても難しい。
言葉を抽象的に学ぶだけの研修やセミナーは、「難しかった」で終わってしまい、
中小企業の現場ではそのまま使えないのです。

中小企業が“すぐ実践できる”村瀬式ドラッカー7つの原則

そこで私は、この難しいドラッカーの理論を、
中小企業がそのまま現場で使える形に絞り込んで体系化しました。
それが「人を活かす経営 7つの原則」です。おかげさまで257社以上に導入いただき、
産業能率大学出版部から出した書籍も7刷を重ねています。

いちばんの特長は、一度きりの研修で終わらせず、すぐに実践でき、
「仕組み」として組織に定着すること

マーケティング、イノベーション、成果、学習、リーダーシップ、使命、人を活かすマネジメント。
この7つを順に根づかせていくと、管理職の一人ひとりが、自然とチェンジリーダーへと育っていきます。

観点 一般的な管理職研修 村瀬式ドラッカー7つの原則研修
育てる人材 組織を管理する管理職 組織に変化を生むチェンジリーダー
分かりやすさ ドラッカーは難解で実践しにくい 中小企業が実践できる、一番わかりやすい形に体系化
定着 一過性で終わりがち すぐ実践でき、仕組みとして組織に定着
伝え方 知識を頭で理解させる 情熱を込め、心から腹落ちさせる
実績 導入257社以上/受講1,520名以上

情熱が、組織に火をつける

多くの研修は、知識を頭で理解させて終わります。
でも私は、ドラッカーが込めた情熱そのままに、心から「腹落ち」していただくことを、何より大切にしています。
その熱量は、YouTubeの講義動画を見ていただければ、きっと伝わるはずです。

これまで受講された社長さんや管理職の方から、
「社長魂に火がついた」「他のセミナーにはない、魂からの感動があった」といった声を、数えきれないほどいただいてきました。
理屈で終わらせない。心を動かす。だからこそ、研修のあとに行動が変わり、組織に火がつくのです。

管理職が育てば、組織そのものが変わっていく

一人の管理職が変われば、そのチームが変わります。チームが変われば、次の幹部候補が育つ。
そうやって、組織全体が確実に変わっていきます。
これが、一般的な管理職研修と、村瀬式ドラッカー「7つの原則」研修との、決定的な違いです。


ドラッカー7つの原則研修

「まずは本を読んでから」という経営者の方も、たくさんいらっしゃいます。
産業能率大学出版部『ドラッカーが教えてくれる 人を活かす経営7つの原則』(7刷)も、どうぞ手に取ってみてください。
そのうえで、貴社の管理職研修や組織づくりのお悩みに合わせたご相談も、いつでもお受けしています。
大丈夫です。一緒に、その一歩を考えていきましょう。まずはお気軽にお問い合わせください。


著者:村瀬 弘介(むらせ こうすけ)/経営コンサルタント・著者

中小企業向けに、難解なドラッカー理論を「そのまま実践できる仕組み」へと体系化した
「村瀬式ドラッカー・人を活かす経営7つの原則」を提唱。導入企業257社以上、受講者1,520名以上。
著書『ドラッカーが教えてくれる 人を活かす経営7つの原則』(産業能率大学出版部)は7刷を重ねるロングセラー。
熱血の講義で、組織に火をつけ、管理職をチェンジリーダーに進化させる研修に定評がある。