社員のモチベーションが上がらない――やる気を引き出しエンゲージメントを高める方法【中小企業の社長へ】
「給料も上げた、面談も増やした、福利厚生も整えた。それでも社員のやる気が上がらない」――そう感じている中小企業の社長へ。ドラッカーコンサルタントの村瀬弘介が、なぜ社員のモチベーションが上がらないのか、その本当の原因と、エンゲージメントを高める道筋を解説します。
社員のやる気が上がらないのは、社長の努力が足りないからではありません。「やる気は施策で外から与えられる」という前提そのものが間違っているからです。人は、給与や制度で動くのではなく、「自分の強みが活き、誰かの役に立っている」という手ごたえによって、内側から動き出します。エンゲージメントとは、その手ごたえを社員一人ひとりが持てる組織をつくること。本記事では、通説の落とし穴を明らかにしたうえで、ドラッカーの人間中心のマネジメントと、私が257社・1,520名超の現場で磨いた「人を活かす経営7つの原則」から、その具体的な道筋をお伝えします。

この記事でまとめたこと
「社員のやる気が上がらない」と悩む社長がいま、これほど多い理由
弊社にご相談いただく社長様の中で、「社員のモチベーションが上がらない」「やる気のある社員が育たない」「せっかく採用しても辞めてしまう」というお悩みは、年々増え続けています。
データもそれを裏づけています。米ギャラップの「グローバル職場環境調査」によると、仕事への熱意や職場への愛着を示す社員の割合は、日本では2022年でわずか5%。調査した145カ国の中で最も低い水準にとどまり、4年連続の横ばいが続いています(出典:日本経済新聞)。

100人いれば、心から前向きに働いているのは5人。裏を返せば95人が、どこかで力を出しきれていない。これが日本の職場の現実です。とりわけ人材に余裕のない中小企業では、この1人あたりの「やる気の差」が、そのまま業績の差になって現れます。
そもそもエンゲージメントとは、従業員が会社の理念に共感し、その実現のために自発的に貢献したいと思う意欲のこと。「会社への信頼の強さ」「会社とのつながりの深さ」と言い換えてもいいでしょう。単なる満足度や愛社精神とは違い、業績と強く結びつくことが、近年の数多くの調査で明らかになっています。
通説:やる気は「給与・福利厚生・1on1」で上げられる、という考え方
社員のやる気の問題に直面したとき、多くの本やコンサルティング会社が勧めるのは、だいたい次のような施策です。
・福利厚生やオフィス環境を充実させる
・1on1ミーティングを増やし、コミュニケーションを密にする
・人事評価制度やサーベイ(従業員満足度調査)を導入する
・ピアボーナスや表彰など、承認の仕組みを整える
どれも、それ自体は間違っていません。実際に有効な場面もあります。私自身、クライアント企業でこうした仕組みづくりを支援することもあります。
しかし、多くの社長が見落としているのは、これらがすべて「外から与える刺激」だということです。給与も、面談も、制度も、社員の外側から手を加えるアプローチにすぎません。そして、外から与えた刺激で上がったやる気は、外からの刺激が止まれば、また元に戻ってしまうのです。
中小企業で「それでもやる気が上がらない」本当の落とし穴
とくに中小企業では、通説どおりの施策を打っても、やる気が上がらない――どころか、かえって空回りしてしまうことがあります。私が現場で繰り返し目にしてきた、3つの落とし穴があります。
落とし穴①:体力勝負では大企業に勝てない
給与も福利厚生も、突き詰めれば資金力の勝負です。大企業と同じ土俵で待遇を競えば、中小企業はまず勝てません。「うちも待遇を良くしないと」と背伸びをして、体力を削りながら競争に巻き込まれていく。これが第一の落とし穴です。
落とし穴②:施策が「作業」になり、心が置き去りになる
1on1も評価制度もサーベイも、導入すること自体が目的になってしまうと、途端に形だけの「作業」になります。上司は面談の時間を義務でこなし、社員は評価シートを埋めるためだけに動く。仕組みは回っているのに、肝心の人の心はまったく動いていない。むしろ「やらされ感」だけが増えていく。これが第二の落とし穴です。
落とし穴③:やる気を「与えるもの」だと勘違いしている
そして最も根深いのが、「社長ががんばって、社員にやる気を与えなければならない」という思い込みです。やる気は、外から注入するガソリンではありません。それは本来、社員一人ひとりの内側から湧き出てくるものです。社長の役割は、やる気を与えることではなく、社員が本来持っているやる気が自然に湧き出る「場」をつくること。ここを取り違えると、どんな施策も的を外し続けます。
本当のツボ:人は「貢献」と「強みの発揮」で動く――ドラッカーの真意
では、人は何によって動くのか。ここで、私が生涯をかけて学び続けているマネジメントの父・ドラッカーの言葉に立ち返りましょう。
ドラッカーは、こう言い切っています。
「成果を上げるには、仕事を生産的なもの、つまりやりがいのあるものにしなければならない」(『マネジメント』P.F.ドラッカー著)
ここでいう「やりがい」とは、楽しさや居心地の良さのことではありません。ドラッカーが繰り返し説いたのは、次の2つです。
一つは「貢献」。人は、自分の仕事が誰かの役に立っている、成果につながっているという実感を得たとき、はじめて本気になります。「言われたからやる」のではなく、「この仕事で自分は何に貢献できるか」を自ら問うたとき、人は主体的な働き手に変わるのです。
もう一つは「強み」。ドラッカーは「人は強みによってのみ成果を上げる」と断言しました。弱みを直そうとするマネジメントは、人を平均的で無難な存在にするだけです。一人ひとりの強みに光を当て、それが活きる場所に配置したとき、人は自分でも驚くほどの力を発揮します。
つまり、やる気とは「与えるもの」ではなく、「貢献の実感」と「強みの発揮」という2つの手ごたえによって、人の内側から立ち上がってくるものなのです。給与や制度は、その手ごたえを支える器にはなっても、手ごたえそのものを生み出すことはできません。ここに、多くの施策が空回りする理由があります。
現場で1,520名を超える社員さんと向き合ってきて、私は確信しています。どんなに無気力に見える社員でも、「あなたのこの強みを、この仕事で活かしてほしい。それが会社のこの成果につながる」と本気で伝えられたとき、目の色が変わる瞬間が必ずあります。人が動かないのは、やる気がないからではなく、貢献と強みの手ごたえを、まだ誰も手渡せていないからなのです。
なお、「そもそも社員のやる気は何から生まれるのか」というテーマは、こちらの記事でもドラッカーの視点から掘り下げています。あわせてお読みください。
▶ 社員のやる気はどこから生まれるか|ドラッカー「顧客が求心力になる」組織
解決の全体像:人を活かす「7つの原則」で、やる気が湧き出る組織をつくる
貢献と強みが手ごたえになる組織は、思いつきの施策の寄せ集めでは生まれません。社長の経営そのものを、人が活きる構造に整える必要があります。
その体系が、私が拙著『ドラッカーが教えてくれる 人を活かす経営7つの原則』にまとめ、実際のコンサルティングで使い続けている「7つの原則」です。ここでは、社員のモチベーションとエンゲージメントに直結する要点を、通説の施策と対比しながらお伝えします。
①「何のために」を、社長の言葉で語りきる(理念とビジョン)
社員が方向を見失うと、やる気は真っ先に消えます。大切なのは、立派な経営理念を額に飾ることではありません。「わが社は誰の、どんな役に立つために存在するのか」を、社長自身の言葉で、繰り返し語りきること。この会社で働く意味が腹落ちしたとき、社員は自分の仕事に「貢献」の意味を見いだします。
②強みに光を当てる(配置と評価)
人事評価を「粗探し」の道具にしてはいけません。評価とは本来、一人ひとりの強みを見つけ、それが活きる仕事に配置するための営みです。弱みの矯正ではなく、強みの発揮に軸足を移すだけで、同じ社員が別人のように働き出します。この考え方は、こちらの記事で詳しく解説しています。
▶ 9割の社長が勘違いしている「間違った人事評価」──強みに光を当てる評価という考え方
③自ら目標を持たせる(目標による自己管理)
ドラッカーが提唱した目標管理(MBO)の本質は、上から数字を割り当てることではなく、社員が自ら目標を立て、自ら管理することにあります。「やらされる目標」は重荷になり、「自ら選んだ目標」はやる気の源になります。この違いが、主体性を生むか、指示待ちを生むかの分かれ道です。
④社員の成長に本気で投資する(人材育成)
「成長が止まっている」という感覚ほど、優秀な社員のやる気を削ぐものはありません。強みを伸ばす学びの機会を用意し、社長自身が社員の成長を心から願う。人が育つ実感こそ、会社に留まる最大の理由になります。結果として、社員が辞めない組織にもつながります。
▶ 社員が辞めない会社をつくる、ドラッカーの3つの視点とは?
⑤社長自身の人格を高める(真摯さ)
ドラッカーは、マネージャーに唯一絶対に必要な資質として「真摯さ(integrity)」を挙げました。小手先の施策よりも、社長がどれだけ誠実に人と向き合っているか。社員はそこを、驚くほど鋭く見ています。エンゲージメントの土台は、最後は社長の人格に行き着くのです。
これら7つの原則は、どれか一つを部分的に取り入れるのではなく、経営全体を貫く一本の背骨として機能させたときに、はじめて本当の力を発揮します。
各企業の事例:やる気を引き出した仕組みから学べること
参考までに、社員のやる気を引き出したことで知られる企業の取り組みを見てみましょう。いずれも大企業の事例ですが、その根っこにある考え方は、中小企業でも工夫次第で実践できます。
グーグルの20%ルール
社員が業務時間の20%を、自分の関心あるプロジェクトに使える仕組み。ここから多くの新サービスが生まれました。「強みと関心を発揮する余白」を制度化した好例です。
ザッポスの企業文化
文化に合うかを最重視した採用と、「合わないなら辞めていい」と伝える潔さ。ここに残る人は、心から会社に貢献したい人だけになります。
ネットフリックスの自由と責任
柔軟な勤務や無制限の休暇を認め、社員を「責任ある大人」として扱う文化。信頼して任せることが、主体性とエンゲージメントを引き出しています。
共通しているのは、待遇そのものではなく、「貢献」と「強みの発揮」を後押しする設計になっている点です。中小企業でも、社長の一言や配置の工夫から、今日すぐ始められます。
エンゲージメントの本質は、働く人の幸せを願うこと
ここまで原因と道筋をお伝えしてきましたが、最後に、私が最も大切にしている考えをお話しさせてください。
エンゲージメントの本質は、突き詰めれば、社長が社員の幸せを心から願えるかどうかにあります。ドラッカーはこう言いました。
「マネジメントとは、人にかかわることである」(『マネジメント』P.F.ドラッカー著)
経営学の父・ドラッカーは、歴史上はじめて、経営の目的は利益ではなく、人と社会が幸せになることだと喝破しました。人が幸せにならない会社に、意味はない――この思想を、私は拙著『人を活かす経営7つの原則』の序章に、魂を込めて書きました。
組織は、人でできています。人の成長が、そのまま組織の成長になる。あなたの会社で本当に人を活かし、輝かせたいと願う社長にこそ、人間中心の経営学であるドラッカーを学んでいただきたいのです。
以下の動画では、ドラッカーが説いた「人を活かす会社3つの条件」を解説しています。エンゲージメントを考えるうえで、大きなヒントになるはずです。
ドラッカーが語る・人が生かされる会社の3つの条件
まとめ:社員のやる気が上がらない本当の理由と、これから
社員のモチベーションが上がらないのは、社長の努力不足ではなく、「やる気は外から与えるもの」という前提の間違いにあります。給与・福利厚生・1on1・評価制度といった通説の施策は、外から与える刺激にすぎず、中小企業では体力勝負・形骸化・与える発想という3つの落とし穴にはまりがちです。
人が本当に動くのは、「貢献の実感」と「強みの発揮」という2つの手ごたえを得たとき。この手ごたえが自然に湧き出る組織を、経営の背骨としてつくり上げるのが、ドラッカーの人間中心のマネジメントであり、私の「人を活かす経営7つの原則」です。エンゲージメントの本質は、社長が社員の幸せを心から願うことにあります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 給与を上げれば、社員のやる気は上がりますか?
一時的には上がることもありますが、長続きはしません。給与は「不満を減らす」効果はあっても、「やる気を生み出す」ものではないことが、行動科学でも知られています。やる気の源は、貢献の実感と強みの発揮です。待遇改善は土台として整えつつ、そのうえで働く意味を手渡すことが本筋になります。
Q2. 1on1ミーティングを導入したのに効果が出ません。なぜですか?
1on1が「実施すること」自体を目的にした作業になっている可能性が高いです。大切なのは頻度や形式ではなく、社員の強みを見つけ、貢献を実感してもらう対話になっているかどうか。評価や指示の場ではなく、社員の内側にある動機を引き出す場として設計し直すと、同じ1on1でも効果が変わります。
Q3. 中小企業でも、大企業のようなエンゲージメント施策はできますか?
むしろ中小企業のほうが有利です。社長と社員の距離が近く、一人ひとりの強みや状況が見えやすいからです。大がかりな制度を真似る必要はありません。社長が直接「あなたの強みをこの仕事で活かしてほしい」と伝えること自体が、大企業には難しい最強の施策になります。
Q4. やる気のない社員が一人いると、周囲にも広がってしまいます。どうすれば?
まずその社員を「やる気がない人」と決めつけないことです。多くの場合、貢献と強みの手ごたえを持てていないだけです。その人の強みがどこにあるかを見極め、活きる役割に配置し直す。それでも変わらない場合は、会社の方向性と本人の価値観が合っているかを、対話の中で率直に確認していきます。
Q5. ドラッカーの考え方は、うちのような小さな会社にも役立ちますか?
はい。ドラッカーのマネジメントは規模を問いません。むしろ「人を活かす」という原則は、一人ひとりの顔が見える中小企業でこそ、最も力を発揮します。私のクライアントの多くも中小企業であり、257社・1,520名超の現場で、その効果を実感しています。
明日から始める3つのこと
評価表ではなく、あなたの目に映るその人の良さを書く。強みが見えていないところに、やる気は生まれません。
②「あなたのこの強みで、会社のここに貢献してほしい」と本人に伝える
制度をつくる前に、まず社長の口から直接伝える。これがすべての起点です。
③「わが社は誰の、何のために存在するのか」を自分の言葉で言語化する
朝礼でも社内報でもかまいません。働く意味が共有された組織から、やる気は静かに湧き出していきます。
個別のご相談・学びの場のご案内
「自社の場合、どこから手をつければいいのか」を具体的に整理したい社長は、まずは無料の相談・入門の場をご活用ください。そのうえで、本格的に人を活かす経営を学びたい方には、セミナー・研修をご用意しています。
エンゲージメントを高め、社員の幸せを願い、業績アップにつなげたい社長は、ぜひ人間中心の経営学であるドラッカーを学ばれることをお勧めします。ドラッカーを学べば、社長として人をどう活かすべきか、幸せな組織をつくるために何に取り組めばよいかが、明確になります。
この点は、拙著『ドラッカーが教えてくれる 人を活かす経営7つの原則』の序章で、熱く執筆させていただきました。以下の動画に朗読版がありますので、あわせてご覧ください。リーダーの魂に火をつける内容になっております。
【朗読:ドラッカーが教えてくれる 人を活かす経営7つの原則】
■ブログ執筆者 ドラッカー専門の経営コンサルタント 村瀬弘介
2002年、大学卒業後、株式会社KUBOTAの人事教育部で全社の人材育成を担当。2011年、経営と起業家精神をより深く学ぶために日本経営道協会(コンサルタント)に転職。
2013年、小宮一慶氏の経営する株式会社小宮コンサルタンツに経営コンサルタントとして転籍。本格的な経営コンサルティングを開始。マネジメントを学ぶ中で、【ドラッカーの人を活かす経営】との運命的な出会いを果たす。
人が活かされ、高い成果を上げる幸せな企業をつくることこそ自分の天命だと悟り、2017年独立。「高い理想と自己犠牲の精神で、人の魂の成長に貢献する」「リーダーの人格の向上に奉仕する」をコンセプトに、使命感を持って日々の業務にあたっている。
講師としても依頼が絶えず、全国の商工会議所、経営者団体など各種経済団体でのセミナー講師、上場企業・中堅企業での研修講師を年間200日以上務める。「情熱的でドラッカー愛に溢れる講義は、まるでドラッカーのイタコだ」「ドラッカーが降りてきた」「マネジメントの真髄を見た」と熱狂的に支持する経営者が後を絶たない。
著書:『ドラッカーが教えてくれる 人を活かす経営7つの原則(産業能率大学出版部・Amazon【企業経営部門】第2位)』
■ドラッカーが圧倒的に分かる!活かせる!イノベーションが起こすドラッカーの伝道師です。
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