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人材育成のためのドラッカー:マーケティング人材を育てるという経営の中核
人材育成というと、スキル研修や評価制度の話に寄りがちです。
でもドラッカーの視点に立つと、育てるべき人材像はもっとはっきりします。
事業を成長させ、収益を生み出せる人材——その中核にあるのが、マーケティングを理解し、実践できる力です。
マーケティングは「経営の第一目標」である
ドラッカーは、経営で最も大切な機能を一つ挙げるならマーケティングだと言います。
なぜなら、会社の中にあるのはコストであり、利益が生まれるのは会社の外、つまり市場と顧客の側だからです。
利益は市場にしかない。
この前提を腹落ちさせると、マネジメントの視点が変わります。
社内の都合で整えるのではなく、市場の変化を起点に事業を整え直す。
その「外部起点」の思考ができる人材が、組織の伸びを決めます。
マーケティングとは「market+ing」──市場の中から考えること
マーケティングを英語で見ると、market(市場)+ingです。
つまり、企業の中ではなく、市場の中から自社を捉えるという意味合いが含まれています。
企業の中にいると、どうしても内部の論理が強くなります。
しかし顧客がいるのは外です。
競合がいて、顧客が変化して、市場が変化しているのも外です。
だからこそ、マーケティングとは、外部の変化をつかみ、価値を上げ続ける営みになります。
顧客視点・市場視点で価値を上げ続けられること。
これが、マーケティング人材の中身です。
全社員がマーケターであるべき理由
マーケティングは営業部門だけの仕事ではありません。
工場の一ラインの作業者も、経理も、財務も、総務も、例外ではない。
なぜなら、どの仕事も最終的には顧客への価値につながっているからです。
組織は放っておくと内部志向になります。
仲良くやりたい、摩擦を避けたい、社内の論理でまとまりたい。
その結果、外を見なくなる。
だから人材育成として重要なのは、知識を詰め込むことよりも、外部思考に切り替える習慣を社内に根付かせることです。
内部志向ではなく、市場と顧客を中心に自社を捉えられる人材を育てる。
ここが、人材育成の肝になります。
「会社の都合」は顧客に関係ない
従業員を大事にすることは大切です。
人を活かす経営がドラッカーの経営です。
ただし、企業は公務員組織ではありません。
予算が降ってくるわけではなく、利益は顧客からしか生まれません。
顧客満足と社員満足は、自転車の二輪のようなものです。
しかし回し始める起点は、まず顧客の側にあります。
顧客が選び、貢献してくれるからこそ、社員の働きがいも待遇も成立します。
顧客だけがプロフィットセンターである。
この現実から目を逸らさないことが、健全な人材育成の前提になります。
最良のコンサルタントは「お客様」である
自分の仕事を見直すとき、誰に聞くか。
上司や部下の意見も大事ですが、それだけでは視界が内側に閉じます。
ドラッカーの視点では、事業の最良のコンサルタントはお客様です。
顧客に聞けばいい。
「満足できていないところはどこですか」
「もっと気をつけた方がいいところはどこですか」
「改善点はありませんか」
顧客からの声を、改善につなげる。
顧客視点で改善できることこそ、経営の改善です。
改善や5Sをどれだけ工場でやっても、顧客目線を失った改善に価値はない。
顧客に向けて価値を生み出すという目線がないと、改善は自己満足になってしまう。
だからこそ、お客様を先生とする文化をつくることが、マーケター育成のスタートになります。
自社目線では「真実」が見えない
自社から見える景色と、顧客から見える景色は真反対です。
自分では見えないものが、顧客には見えている。
顧客目線でなければ、事業の真実は捉えられない。
だから社長として、人事として、社内に植え付けたいのはこの一点です。
すべてを顧客からスタートする。
その発想が社内の隅々に行き渡ったとき、組織は外部思考に切り替わり、変化に強くなっていきます。
内部の「正しさ」が顧客を踏みにじるとき、組織は弱る
市場を見ている企業は強い。
顧客に憑依するほど顧客の視点で考え抜き、商品やサービスを磨き続ける企業は、結果として選ばれます。
一方で、内部の議論が「正しい改善」に見えても、顧客視点を外した瞬間に危うくなる。
コスト削減や効率化が、顧客価値を削る形で行われると、顧客は敏感に反応します。
お客様目線の行動がなくなった瞬間、組織は顧客に無視される。
マーケティングとは、顧客を深く理解し、顧客に貢献し、価値をつくり出す姿勢です。
そしてドラッカーはこう言う。
マーケティングの優劣が、ビジネスの優劣を決める。
停滞を打ち破るのは「チェンジ・リーダー=マーケター」である
成長が止まっている組織の多くは、内部志向になっています。
市場の変化についていけていない。
ライバルが同じようなものを提供し、相対的に価値が低下している。
だからこそ、もう一度謙虚になり、一番厳しいお客様の目線で事業を見直す必要があります。
その見直しを担える人材が、チェンジ・リーダーです。
そしてチェンジ・リーダーの中身は、派手なカリスマ性ではありません。
顧客と市場を起点に、価値を上げる戦略を考えられること。
この力が、組織に変化を起こします。
マーケティング教育は「顧客を理解する訓練」である
マーケティングは一朝一夕では身につきません。
それだけ重要で、経営の基盤だからです。
たとえば釣りをするとき、どれだけ良い餌をつけても、魚の好みに合わなければ釣れません。
顧客中心とは、魚中心であるということ。
良い漁師とは、魚の気持ちが分かっている人である。
顧客を知る。
市場を知る。
市場の変化を知る。
この訓練を積み重ねた人材が、マーケターとして価値を生み出せるようになります。
今回まとめ(人を活かすドラッカー研修のポイント)
- 【1】最も厳しいお客様の目線で、自社の仕事を見直す問いを定例化する
- 【2】「満足できていない点」「改善点」を顧客に直接聞き、改善まで結びつける仕組みをつくる
- 【3】職種に関係なく「この仕事は市場にどんな価値を生むか」を言語化させ、全社員をマーケターとして育てる










