この記事でまとめたこと

新規事業が既存事業に潰される理由|ドラッカー「イノベーションは社長直轄で守れ」

最終更新:2026年9月

「せっかく新しい事業を始めたのに、いつのまにか立ち消えになってしまう」――。
社長や幹部であるあなたが、そう感じたことはないでしょうか。そのお気持ち、よく分かります。

私がご相談をお受けする中小企業でも、「新規事業やイノベーションの芽が、なぜか社内でしぼんでしまう」というお悩みは、本当に多いんです。
でも、大丈夫です。これは担当者の能力の問題ではありません。多くの場合、原因は「置き場所」と「任せ方」にあります。

まず、結論からお伝えします。
新しい事業やイノベーションの芽は、放っておくと必ず既存事業に潰されます。だからドラッカーは、イノベーションの担当は社長直轄・専任とし、既存事業と兼務させてはならない、と言い切りました。

なぜ、既存事業が新しい芽を潰してしまうのか。誰に任せ、どう評価すればいいのか。
難しく考える必要はありません。順番に、一緒に見ていきましょう。


なぜ、新規事業・イノベーションは既存事業に潰されるのか

はじめに、いちばん大事なことをお伝えします。イノベーションの最大の敵は、外の競合ではありません。自社のこれまでの成功体験と、既存事業そのものなんです。現場でうかがうと、潰れる理由はたいてい次の3つに整理できます。

①既存事業の担当者にとって、新規事業は「自分の売上を食う敵」に見える

これが、いちばん根深い理由です。
新しい商品やサービスは、育っていく過程で、時に既存商品の売上を食ってしまうことがあります。いわゆるカニバリゼーションです。
そうなると、これまで既存事業を支えてきた人ほど、面白くない。「この商品が会社を大きくしてきたんだ」という思いがあるからこそ、新しい芽を歓迎できず、むしろ無意識のうちに潰そうとしてしまうのです。

②既存事業と同じ「ものさし」で評価されてしまう

生まれたばかりの新規事業に、いきなり既存事業と同じ売上や利益を求める。
これも、非常によくある失敗です。稟議、ROI、黒字化の時期――既存事業のものさしをそのまま当てはめた瞬間、まだ小さな芽は「数字が出ていない」と判断され、静かに打ち切られてしまいます。

③既存事業が忙しく、新しい挑戦がいつも後回しになる

日々の数字を守るだけで、現場はもう手いっぱい。
新規事業を「片手間の兼務」で任せてしまうと、担当者はどうしても目の前の既存業務を優先します。すぐにお金にならない挑戦は、いつも後回し。忙しさそのものが、変化を遠ざけてしまうのです。

ドラッカーは、この構造をはっきりと見抜いていました。だからこそ、イノベーションの担当は既存事業から切り離し、社長直轄・専任にせよと説いたのです。潰されるのは能力不足のせいではなく、「潰される場所に置いてしまっている」から。まず、ここに気づく必要があります。

あなたの会社は大丈夫?新規事業がしぼむ5つのサイン

次のようなサインに、心当たりはないでしょうか。1つでも当てはまれば、新しい芽が「潰されやすい場所」に置かれているのかもしれません。

  • 新規事業を、既存事業の役員や部署の「兼務」で任せている
  • 始めて1年も経たないのに、既存事業と同じ売上目標で評価している
  • 「そんなことより本業を」と、既存部門から冷ややかな声が上がっている
  • 新しい取り組みが、いつも日々の業務に押されて後回しになっている
  • 担当者が孤立し、「誰も味方してくれない」と感じている

どれも、担当者の頑張りが足りないからではありません。「守られる場所」と「専念できる時間」が与えられていないだけなんです。

新規事業を潰したまま放置すると起こる4つの悪影響

もしこの状態を放っておくと、どうなるでしょうか。多くの場合、次の4つが連鎖して起こります。

悪影響①:会社の未来を担う事業が、いつまでも生まれない

今の主力商品も、実はどこかの時点で生まれたイノベーションの産物です。
その芽を潰し続ければ、次の柱が育たず、会社は過去の遺産を食いつぶしていくことになります。

悪影響②:主力商品のコモディティ化に、対応できなくなる

どんな商品も、いずれ必ずコモディティ化し、価格競争に巻き込まれて利益が細っていきます。
未来の商品を仕込んでいなければ、その時に打つ手がありません。気づいた時には、手遅れになっているのです。

悪影響③:挑戦する意欲のある人材が、辞めていく

ここが、人を預かる立場として見逃せないところです。
「新しいことをやろう」と手を挙げた人ほど、潰される経験を重ねると、心が折れてしまいます。「この会社では挑戦しても無駄だ」――そう感じた優秀な人から、静かに去っていく。私は、そんな話を何度も聞いてきました。

悪影響④:「挑戦は損」という空気が、組織に根づく

一度「新しいことをやると叩かれる」という空気ができると、それは組織全体に広がります。
誰も余計なことをしなくなり、言われたことだけをこなす組織になる。変化の速い時代に、これほど危ういことはありません。

ドラッカーが説く本質「イノベーションは社長直轄で守れ」

では、どうすれば新しい芽を守れるのか。ドラッカーの答えは、驚くほど明快です。イノベーションの担当は、社長直轄・専任とし、既存事業と決して兼務させてはならない。これが、芽を守るための組織の原則です。

少し、想像してみてください。生まれたばかりの新規事業は、まだ小さな赤ちゃんのようなものです。
その子に、いきなり20キロの荷物を背負わせたら、どうなるでしょうか。歩くどころか、立つこともできません。既存事業と同じ売上を1年目から求めるのは、まさにこれと同じことなんです。

だからドラッカーは、こう説きます。イノベーションの評価は、既存事業とはまったく別の基準で行いなさい、と。ただし、放任してよいという意味ではありません。「いつまでに、どの領域まで到達するか」というマイルストーンと、「ここまで届かなければ撤退する」という撤退基準は、必ず持っておく。守りながら、しかし見極める。この両方が要るのです。

「社長直轄にする」というのは、単なる組織図の話ではありません。それは、経営トップが「この事業は会社の未来のために守る」と社内に宣言し、既存事業の論理から明確に保護することを意味します。近ごろよく語られる「両利きの経営(既存事業の深化と、新規事業の探索を分ける)」も、その本質はここにあります。ドラッカーは、ずっと前からこれを説いていたのです。

誰に任せるか――イノベーション担当は「人を活かす」絶好の機会

体制と並んで、いえ、それ以上に大切なのが「誰に任せるか」です。ここは、人を育てる立場のあなたにこそ、深く考えていただきたいところなんです。

ドラッカーは、こう考えます。過去の成功体験を背負った役員は、イノベーションの担当には向かない。なぜなら、その人が成功してきたやり方こそが、これから捨てるべきものだからです。過去のやり方に縛られた人は、無意識にそれを守ろうとしてしまいます。

では、誰がふさわしいのか。ドラッカーが挙げるのは、たとえば別の業界から来た、しがらみのない人。
そしてもう一つ――社内でまだ活躍しきれてはいないけれど、確かな能力を秘めている人です。

これは、まさに「その人の強みに、最大の機会を当てる」という、ドラッカー人材育成の考え方そのものです。既存の物差しでは評価されにくかった人材に、会社の未来を託す新しい舞台を用意する。イノベーション担当を任せることは、体制づくりであると同時に、眠っていた人材を活かし、次世代のリーダーを育てる絶好の機会でもあるのです。

今日から実践できる4つのアクションプラン

では、どうすればいいのか。明日から現場でできることを、4つお伝えします。

①イノベーション担当を、社長直轄・専任にする

まず、担当を既存事業のラインから外し、社長直轄に置く。そして、片手間の兼務ではなく、そのことだけに専念してもらう。
中小企業なら、社長ご自身が直接見る形でかまいません。大切なのは「この事業は経営が守る」と、社内にはっきり示すことです。

②評価基準を、既存事業とは完全に分ける

新規事業に、既存事業のものさしを当てないでください。
売上や利益ではなく、「どれだけ学べたか」「顧客の反応をどれだけ掴めたか」といった、その段階にふさわしい基準で評価する。20キロの荷物を、いきなり背負わせないことです。

③マイルストーンと撤退基準を、先に決めておく

別基準にするからこそ、けじめも必要です。
「いつまでに、どこまで到達すれば次のステージに進めるか」「どこまで届かなければ撤退するか」。この2つを始める前に決めておく。守ることと、だらだら続けることは違います。

④「まだ活躍しきれていない能力の高い人」に、機会を与える

担当者は、過去の成功者ではなく、これから伸びる人の強みに、最大の機会を当てて選ぶ。
既存の評価では埋もれていた人材が、新しい舞台で花開くことは、決して珍しくありません。人を活かすとは、こういうことです。

そして、ここまでの4つは「あれもこれも」と身構える必要はありません。
これらはすべて、村瀬式・ドラッカーの7つの原則の実践シートを日々書き込んでいくだけで、組織の「仕組み」として自然に身につき、定着していきます。
やることは一つずつ。村瀬にご相談いただき、言われたとおりに進めていただければ、難しく考えなくても、平易に、そして確実に根づいていきます。

よくある質問

Q. 中小企業でも、イノベーション担当を「社長直轄」にできますか?

はい、むしろ中小企業の方が実践しやすいです。
大企業のように複雑な組織を作る必要はありません。社長ご自身が直接その担当を見て、既存事業の論理から守る。それだけで十分に社長直轄になります。専任にできる人が一人いれば、始められます。

Q. 新規事業が既存商品の売上を食ってしまう(カニバリ)のが心配です。

そのお気持ちは分かります。でも、自社が食わなければ、いずれ他社に食われます。
どんな商品も必ずコモディティ化していく以上、未来の商品を自ら仕込むしかありません。だからこそ、既存事業と切り離した専任の体制で、恐れずに育てることが大切なのです。

Q. 既存事業と別の評価基準にすると、社内に不公平感が出ませんか?

ここは丁寧な説明が要ります。生まれたての事業と成熟した事業を同じ物差しで測る方が、むしろ不公平です。
「なぜ別基準なのか」を経営が言葉にして示すこと、そして「協力すると得をする」形に評価を整えること。この2つで、既存部門の非協力や「金食い虫」といった空気は、ずいぶん和らぎます。

Q. 担当に、社内で実績のある優秀な役員を充てるのは間違いですか?

一概に間違いとは言えませんが、注意が必要です。過去の成功体験が強い人ほど、これまでのやり方を捨てにくいからです。
それよりも、まだ活躍しきれていないけれど能力の高い人や、別業界の視点を持つ人の方が、しがらみなく新しい発想に挑めることが多いのです。

Q. どのくらいの期間、様子を見ればいいのでしょうか?

一律の正解はありませんが、大切なのは「期間」ではなく「基準」です。
始める前に、マイルストーン(到達目標)と撤退基準を決めておく。そこに照らして、進んでいるなら守り、届かなければ潔く撤退する。感情ではなく、あらかじめ決めた基準で判断することが、担当者を守ることにもつながります。

まとめ

新規事業やイノベーションの芽を守る鍵は、担当者の根性でも、特別な才能でもありません。
既存事業から切り離し、社長直轄・専任で守る。評価は別基準にし、まだ伸びしろのある人材に、その強みを活かす機会として任せる。
この組織と人の設計こそが、会社の未来を作る、いちばん確かな近道です。

このテーマに関する、ドラッカーからのヒントを動画でも解説しています。村瀬の情熱の講義でインプットしてみてください。


なぜ、一般的な管理職研修では組織が変わらないのか

ここまでの「イノベーションを社長直轄で守る」という考え方は、今日からでも実践できます。
ただ、正直にお伝えすると、体制を一度整えただけ、あるいは一度きりの研修だけでは、組織の体質はなかなか変わりません。
これも、多くの経営者が同じ壁にぶつかるところなんです。

変化のゆるやかだった時代なら、管理職は決められたことを「管理」するだけで十分でした。
けれど、変化の速い今は違います。求められているのは、
経営者であるあなたと視点を合わせ、現場を一丸にして、自ら組織に変化を生み出す「チェンジリーダー」です。
「管理」の技術だけでは、組織は根っこから変わりません。

根本の答えはドラッカーにある。でも“普通のドラッカー”では実践できない

生産性、部下育成、理念の浸透、組織の元気――。
こうした悩みの根っこを解くヒントは、実はそのすべてが、ドラッカーの原理原則の中にあります。
だからこそ、目先の技術を教える一般的な研修ではなく、ドラッカーの本質を学ぶ研修が必要なのです。

とはいえ、ここで多くの方がつまずきます。ドラッカーの原著は、分厚くて、正直とても難しい。
言葉を抽象的に学ぶだけの研修やセミナーは、「難しかった」で終わってしまい、
中小企業の現場ではそのまま使えないのです。

中小企業が“すぐ実践できる”村瀬式ドラッカー7つの原則

そこで私は、この難しいドラッカーの理論を、
中小企業がそのまま現場で使える形に絞り込んで体系化しました。
それが「人を活かす経営 7つの原則」です。おかげさまで257社以上に導入いただき、
産業能率大学出版部から出した書籍も7刷を重ねています。

いちばんの特長は、一度きりの研修で終わらせず、すぐに実践でき、
「仕組み」として組織に定着すること

マーケティング、イノベーション、成果、学習、リーダーシップ、使命、人を活かすマネジメント。
この7つを順に根づかせていくと、管理職の一人ひとりが、自然とチェンジリーダーへと育っていきます。

観点 一般的な管理職研修 村瀬式ドラッカー7つの原則研修
育てる人材 組織を管理する管理職 組織に変化を生むチェンジリーダー
分かりやすさ ドラッカーは難解で実践しにくい 中小企業が実践できる、一番わかりやすい形に体系化
定着 一過性で終わりがち すぐ実践でき、仕組みとして組織に定着
伝え方 知識を頭で理解させる 情熱を込め、心から腹落ちさせる
実績 導入257社以上/受講1,520名以上

情熱が、組織に火をつける

多くの研修は、知識を頭で理解させて終わります。
でも私は、ドラッカーが込めた情熱そのままに、心から「腹落ち」していただくことを、何より大切にしています。
その熱量は、YouTubeの講義動画を見ていただければ、きっと伝わるはずです。

これまで受講された社長さんや管理職の方から、
「社長魂に火がついた」「他のセミナーにはない、魂からの感動があった」といった声を、数えきれないほどいただいてきました。
理屈で終わらせない。心を動かす。だからこそ、研修のあとに行動が変わり、組織に火がつくのです。

管理職が育てば、組織そのものが変わっていく

一人の管理職が変われば、そのチームが変わります。チームが変われば、次の幹部候補が育つ。
そうやって、組織全体が確実に変わっていきます。
これが、一般的な管理職研修と、村瀬式ドラッカー「7つの原則」研修との、決定的な違いです。


ドラッカー7つの原則研修

「まずは本を読んでから」という経営者の方も、たくさんいらっしゃいます。
産業能率大学出版部『ドラッカーが教えてくれる 人を活かす経営7つの原則』(7刷)も、どうぞ手に取ってみてください。
そのうえで、貴社の管理職研修や組織づくりのお悩みに合わせたご相談も、いつでもお受けしています。
大丈夫です。一緒に、その一歩を考えていきましょう。まずはお気軽にお問い合わせください。


著者:村瀬 弘介(むらせ こうすけ)/経営コンサルタント・著者

中小企業向けに、難解なドラッカー理論を「そのまま実践できる仕組み」へと体系化した
「村瀬式ドラッカー・人を活かす経営7つの原則」を提唱。導入企業257社以上、受講者1,520名以上。
著書『ドラッカーが教えてくれる 人を活かす経営7つの原則』(産業能率大学出版部)は7刷を重ねるロングセラー。
熱血の講義で、組織に火をつけ、管理職をチェンジリーダーに進化させる研修に定評がある。