
最終更新:2026年11月
二代目社長の方と話していて、こんな声を聞きました。
「幹部に任せているつもりなんです。
でも、月末になると見積もりの承認もお客様対応の相談も、結局ぜんぶ私のところに戻ってくる。
新しい事業を考える時間が、どこにも残らないんです」
あなたの会社でも、似たことは起きていないでしょうか。
「任せたはずなのに、最後の一歩でいつも自分が呼ばれる」。
承継したばかりの社長ほど、この状態に陥りがちです。
この点について、ドラッカーはこう述べています。
「成果をあげるには、貢献に焦点を合わせなければならない。」
― P.F.ドラッカー『経営者の条件』(上田惇生訳・ダイヤモンド社)
任せるとは、仕事を手放すことではありません。
判断の基準を手渡すことです。
その基準が「貢献」に向いたとき、社長の机から決裁が消えていきます。
今回は、このことを解説します。
この記事でまとめたこと
なぜ、判断は社長に戻ってくるのか
よく「うちの幹部は自分で決めない」と言われます。
でも、幹部の責任にする前に、一つ確かめたいことがあります。
何を基準に決めてよいのか、はっきり渡しているかです。
基準があいまいなまま「任せた」と言うと、どうなるか。
幹部は正しく判断できません。
間違えると叱られる。だから、安全策として社長に聞きにくる。
これは幹部が優柔不断なのではありません。
決める物差しを、まだ受け取っていないだけです。
「処理の速さ」で任せると、戻ってくる
多くの会社で、幹部に期待していることは「処理」です。
見積もりを早く出す。クレームをすぐ収める。件数をこなす。
もちろん大事です。
ただ、処理の速さだけを基準にすると、判断のたびに迷いが出ます。
「この値引きは、していいのか」。
「このお客様の無理は、どこまで聞くのか」。
件数の物差しでは、ここが決まりません。
だから、最後は社長に戻ってくるのです。
ドラッカーの言う「貢献」を、物差しにする
ここで効くのが、先ほどの言葉です。
判断の基準を、処理件数ではなくお客様への貢献に置き換える。
「この決め方は、お客様との約束を守るか」。
この一本があると、幹部は自分で決められます。
たとえば、見積もりの値引きで考えてみます。
件数が基準なら「とりあえず通す」になります。
貢献が基準なら、こう変わります。
「この値引きは、お客様が本当に求めている価値に応えているか。
それとも、ただ受注を落としたくないだけか」
後者なら、幹部は自信を持って断れます。
前者なら、迷わず通せます。
基準がお客様を向いた瞬間、判断が社長の手を離れます。
「任せる・守る・相談する」を三つに分ける
私が後継社長にすすめているのは、仕事を三つに仕分けすることです。
全部を任せる必要も、全部を抱える必要もありません。
見積もりの承認を例にとると、こう分けられます。
| 区分 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 任せる判断 | 幹部が自分で決めてよい | 標準価格の範囲内の見積もり |
| 守る条件 | これを外れたら止める | 原価割れ、納期の無理な約束 |
| 相談する例外 | 社長に上げる | 前例のない大口、取引条件の変更 |
この三つを紙一枚で合意しておく。
すると、幹部は「任せる判断」の中では、もう社長に聞きません。
社長の机に残るのは、本当の例外だけになります。
大事なのは、線を一度決めたら、しばらく動かさないことです。
決めた直後に、幹部が判断を誤ることもあるでしょう。
そこで慌てて線を引き戻すと、また全部が社長に戻ってきます。
小さな失敗は、任せたことの授業料だと思ってください。
線を守り続けることが、幹部を育てます。
マネジメントとは、人に関わること
ここで、もう一つドラッカーの言葉を紹介します。
「マネジメントとは、人に関わることである。その機能は、人が共同して成果をあげられるようにすることである。」
― P.F.ドラッカー『マネジメント』(上田惇生訳・ダイヤモンド社)
権限移譲は、仕事を押し付けることではありません。
幹部が共同で成果をあげられる状態をつくることです。
基準を渡し、守る線を決め、例外だけ一緒に考える。
これが、人に関わるということだと思います。
任せたあと、社長が見るもの
任せると、不安になります。
「勝手なことをされないか」。
だから、つい口を出して、また戻ってくる。
ここで見方を変えます。
処理の一件一件を見るのをやめる。
代わりに、お客様への貢献が積み上がっているかを見る。
「あのお客様との関係は、前より深まったか」。
見る対象を成果に移すと、細かい決裁を手放せます。
幹部に期待することを、言葉にする
最後に、幹部会議で一度、こう問いかけてみてください。
社長「君の仕事で、お客様に一番貢献しているのはどの部分だと思う?」
幹部「急な変更にも、段取りを組み直して間に合わせているところです」
社長「なら、そこは君の判断で動いていい。
原価割れと納期の無理だけは、先に相談してくれ」
この一往復で、幹部は「自分の持ち場」と「相談の線」を同時に受け取ります。
任せるとは、信頼を言葉にして渡すことです。
原理原則に立ち返ると、迷いが減る
お気づきかもしれません。
この話の芯にあるのは、流行りの管理手法ではありません。
「成果は、お客様への貢献から生まれる」という、ドラッカーの原理原則です。
基準を貢献に置く。守る線を決める。例外だけ社長が担う。
変わらない原理原則に沿って仕組みを組むと、判断の渋滞が自然にほどけます。
社長は、本来やるべき「次の事業を考える仕事」に戻れます。
ただ、一人で線を引くのは難しい
正直に申し上げます。
「どこまで任せ、どこを守るか」の線引きは、一人ではなかなか決まりません。
線を引きすぎれば幹部が萎縮し、緩めれば事故が起きる。
自社の実情を知っているからこそ、かえって踏ん切りがつかないのです。
これは、社長の決断力の問題ではありません。一緒に線を引く相手が要るのです。
私の役割は、そこにあります。
ドラッカーの原理原則を、御社の見積もりや承認の現場に翻訳します。
月1回の社長面談で、何を任せ、なぜ今かを言葉にします。
約2時間の幹部会議で、任せる判断と守る条件を、幹部と一つずつ合意します。
社長の机から決裁が消えるところまで、私が伴走します。
御社で、いま社長に戻ってきている判断を一つ挙げるとしたら、何でしょうか。
それを「任せる・守る・相談する」に分けるとき、来月の会議で幹部と何を決めますか。
私は、月1回の社長面談と、約2時間の幹部会議を通じて、社長が「何を選び、なぜ今なのか」を言葉にし、その意図を幹部と共有して「誰が何を試し、何を見て次の判断をするか」まで一緒に具体化しています。無料相談では、ドラッカーの「人を活かす経営7つの原則」による経営診断で、御社の現状と優先して取り組む課題を一緒に整理します。考えがまとまっていなくても、お申し込みいただけます。


