強みが役に立つ相手を探せ

最終更新:2026年11月

コンサルティングの現場で、よくこう聞かれます。

「主要取引先の発注が、来期から減ります。
営業会議で対策を話しても、出てくるのは『新規訪問を増やそう』だけ。
そもそも、どこに新しいお客様がいるのかが分かりません」

あなたの会社でも、似た空気になっていないでしょうか。
「既存のお客様に頼りきりだ。でも、次の顧客が見えない」。
先代の代から続く取引が太いほど、承継した社長はこの不安を抱えます。

この点について、ドラッカーはこう言っています。

「マーケティングの理想は、販売を不要にすることである。」

― P.F.ドラッカー『マネジメント』(上田惇生訳・ダイヤモンド社)

売り込む相手を増やす前に、自社の力が本当に役に立つ相手は誰かを考え直す。
そう捉え直すと、闇雲な新規訪問とは違う道が見えてきます。
今回は、このことについて解説します。

新規開拓は「訪問件数」の問題ではない

受注が細ると、会議はすぐ件数の話になります。
訪問を増やす。リストを広げる。
努力としては正しい。でも、方向が抜けています。
誰に、何を持って行くのか。
ここが決まらないまま件数だけ増やすと、社員は疲れ、数字は戻りません。

ドラッカーは、会社の役目を顧客の創造だと言いました。
新しい顧客は、足で数を踏めば湧いてくるものではありません。
自社の強みが刺さる相手を見つけ出す作業です。

まず「選ばれている理由」を一つ取り出す

次の顧客を探す出発点は、外ではありません。
今のお客様の中にあります。
長く付き合ってくれている取引先を一社思い浮かべてください。
そして問います。この会社は、なぜ他社ではなく、うちを選び続けているのか。

「安いから」と答えが出たなら、少し掘ります。
本当に価格だけでしょうか。
たいていは違います。
「急な変更にも応えてくれる」「無理な納期を相談できる」「現場が分かっている」。
価格の裏に、価格では測れない理由が必ずあります。

その理由は、別の世界でも求められている

選ばれる理由が一つ見えたら、視点を外に移します。
同じ不便を抱えているのは、今の業界の人だけでしょうか。
たいていは、違う業界にも同じ困り事を持つ人がいます。

この点についても、ドラッカーの言葉が効きます。

「企業の基本的な機能は、マーケティングとイノベーションの二つである。」

― P.F.ドラッカー『現代の経営』(上田惇生訳・ダイヤモンド社)

難しく聞こえますが、要はこうです。
お客様の困り事を見つけ、自社の力でそれを解く。
今の相手で成り立っているなら、同じ困り事を持つ別の相手にも通じます。
商品を変えなくても、顧客は創れるのです。

たとえば、こう横に広げる

特定の一社ではなく、よくある例として読んでください。
ある部品加工の会社がありました。
主力は建設機械メーカー向け。その発注が減っていました。

選ばれる理由を取り出すと、「図面が荒くても意図を汲んで形にする」でした。
では、同じ困り事を抱える人は他にいないか。
いました。試作段階の医療機器メーカーや、個人の発明家です。
彼らも「まだ曖昧なものを、一個だけ形にしてほしい」と困っていました。

業界はまるで違います。
でも、求められている力は同じでした。
商品起点なら「建設機械向けの部品屋」で止まります。
顧客起点で見れば、「曖昧なものを最初の一個にする会社」として、別の世界に顧客が見えてくるのです。

既存客頼みと、顧客を創る動きの違い

観点 既存客に頼る 顧客を創る
出発点 今ある取引を守る 選ばれる理由を取り出す
探し方 同じ業界で訪問を増やす 同じ困り事を別業界に探す
武器 付き合いの長さ 自社の強みそのもの
結果 相手が減れば一緒に縮む 土俵を自分で広げられる

右の列に立つと、一社の都合に会社の未来を預けずにすみます。
これが、ドラッカーの言う顧客の創造です。

売り込む前に、三つ確かめる

横に広げたい相手が見えたら、すぐ売り込みに行かないでください。
その前に、確かめることがあります。
次の営業会議で、こう投げかけてみてください。

一、その相手は、今どうやってその困り事をしのいでいるか。(代わりの手段は何か)
二、その手段の、どこに不満があるか。(高い・遅い・融通がきかない等)
三、うちの強みは、その不満を本当に解けるか。(思い込みではないか)

この三つを、相手に会って確かめる。
売り込みではなく、質問から入るのです。
顧客の創造は、仮説を立て、相手に聞いて確かめる地道な作業です。

先代が築いた信用は、横に広げられる

ここで、後継社長はためらいます。
先代が守ってきた取引先を軽んじるようで、気が引ける。
その気持ちは分かります。

でも、逆です。
先代が長年かけて選ばれてきた理由こそ、次の顧客を探す最良の手がかりです。
先代が築いた信用を否定するのではなく、別の相手にも届けるのです。
受け継いだ強みを、新しい世界で活かす。
それは、承継した社長にしかできない仕事だと思います。

原理原則に立ち返ると、迷いが減る

お気づきかもしれません。
ここまでの話に、派手な新手法は一つもありません。
顧客から考える。強みを見る。困り事を解く。
流行りの集客術ではなく、変わらない原理原則に戻っているだけです。

原理原則に沿って判断を重ねると、社長の決断に芯が通ります。
「なぜこの相手なのか」を自分の言葉で言えるようになる。
幹部もその理由に納得し、現場が同じ方向を向きます。

ただ、新しい顧客像は一人では描けない

正直に申し上げます。
「自社の強みが役立つ、まだ見ぬ顧客」は、一人では描き切れません。
自社のことは当たり前になりすぎて、強みが見えないからです。
目の前の受注対応に追われ、考えが日常に戻ってしまう。
これは力不足ではありません。問いを立て続ける相手が要るのです。

私の仕事は、そこにあります。
ドラッカーの原理原則を、御社の判断に翻訳します。
月1回の社長面談で、「どの強みを、誰に広げるか」を言葉にします。
約2時間の幹部会議で、誰がどの相手に何を確かめるかまで決めます。
顧客の創造を、来週の訪問先に変えるところまで、私が伴走します。

御社がお客様に選ばれている一番の理由は、何でしょうか。
その強みを、まだ取引のない相手に広げるなら、来月の会議で誰と何を確かめますか。

私は、月1回の社長面談と、約2時間の幹部会議を通じて、社長が「何を選び、なぜ今なのか」を言葉にし、その意図を幹部と共有して「誰が何を試し、何を見て次の判断をするか」まで一緒に具体化しています。無料相談では、ドラッカーの「人を活かす経営7つの原則」による経営診断で、御社の現状と優先して取り組む課題を一緒に整理します。考えがまとまっていなくても、お申し込みいただけます。

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著者:村瀬 弘介(むらせ こうすけ)/経営コンサルタント・著者

中小企業向けに、難解なドラッカー理論を「そのまま実践できる仕組み」へと体系化した
「村瀬式ドラッカー・人を活かす経営7つの原則」を提唱。導入企業257社以上、受講者1,520名以上。
著書『ドラッカーが教えてくれる 人を活かす経営7つの原則』(産業能率大学出版部)は7刷を重ねるロングセラー。
熱血の講義で、組織に火をつけ、管理職をチェンジリーダーに進化させる研修に定評がある。